14年前、シドニー五輪予選を一緒に戦ってきた2人の選手が、このほど相次いで引退を表明しました。戸田和幸と北嶋秀朗です。

 戸田は今季、シンガポールでプレーしていました。連絡はとりあっており、近々、香港にも来ると聞きました。ぜひ、その時に「お疲れ様」と直接、ねぎらいの言葉を伝えようと思っています。

 戸田とは世代別の代表以外で同じチームになることはなかったものの、非常に気が合う存在でした。常にサッカーのことを考え、クレバーな選手でしたね。Jリーグで対戦した時には、いつもこちらの意図を見抜き、先回りして守るのでとても厄介でした。

 昨季限りでお互いに所属クラブを去ることになり、ともに移籍先が決まらない状態で今年1月の指導者B級ライセンスの講習会を一緒に受講する予定になっていました。そんな折、戸田がシンガポールへの移籍が決定し、講習会は不参加となったのです。

 僕も当時は日本のみならず、アジアでのプレーを視野に入れていた矢先だっただけに、彼の移籍には大きく背中を押された気分でした。今、こうして香港でプレーしているのも、戸田の影響が少なからずあったと感じています。

 戸田は日本でも多くのクラブを渡り歩き、韓国でもプレーしました。この経験は第2の人生でも大いに役立つはずです。ぜひ、今後は指導者として世界に目を向けた若手をたくさん育ててほしいと思っています。

 キタジは1つ年下ですが、高校時代から僕の母校である習志野のライバル、市立船橋で大活躍していただけに、同じストライカーとして強く意識していました。プロではケガに苦しんだ時期もあったとはいえ、17年間、完全燃焼できたのではないでしょうか。

 彼が優れているのは、周りに自分の考えを浸透させるコミュニケーション能力です。サッカーはひとりではできません。いくら力のある点取り屋でも、ひとりで持ちこんでゴールを決めるケースは稀です。

 となれば、いかに周囲とイメージを共有し、得点をあげやすい環境を整えるかが大切になってきます。キタジは日頃からチームメイトと同じ方向性でサッカーができるよう、徹底して意見をすり合わせていると聞きました。これがベテランになっても第一線を張れた大きな要因でしょう。

 年齢を重ねると、どうしても若手にはスピード面では勝てなくなります。だからと言って、プロとして生き残れなくなるわけではありません。周りをうまく使うことで、自分が決定的な仕事をするチャンスはいくらでもつくれます。周りを生かすことで自分も輝く。その術を持っているのがベテランとも言えるでしょう。

 僕も今、香港では若手の多いチームでプレーをしています。現状、公式戦では1勝もできておらず、悔しい結果が続いています。こういう時こそベテランの真価が問われるのです。

 リーグ戦ではキッチーに0-1、サウスチャイナに1-2と上位2チームにいずれも1点差で敗れました。決して内容は悪くなかっただけに、もったいない敗戦です。特にサウスチャイナ戦では相手に退場者が出て数的優位に立ち、せっかく同点に追いついたのに、ロスタイムに決勝ゴールを決められてしまいました。

 相手は完全に時間稼ぎをして引き分けを狙っていましたから、こちらが注意すべき点はカウンターをくらうことのみ。そのリスクマネジメントに失敗して攻め込まれ、ペナルティエリア内で相手選手を倒してPKを与えてしまったのです。

 11月に入って行われたカップ戦(対サン・ペガサス)も1-4で敗れました。2点ビハインドから後半の立ち上がりに僕がゴールを決めて1点差。しかし、次の大事な1点を相手に許し、反撃ムードがしぼんでしまいました。

 次の試合は12月1日のスン・ヘイ戦です。いかに若い選手たちとコミュニケーションをとり、ひとつの方向にチームをまとめていくか。監督やコーチの役割も大事ですが、強いチームにはリーダーシップをとれる選手がピッチ内にいるものです。僕も年長者として、そういった役割を果たせるよう頑張ります。

 同年代の選手の引退を聞くと、改めて、今、現役生活を続けられていることへの感謝の思いが沸いてきます。僕も残り何年プレーできるか分かりません。ユニホームを脱ぐ戸田やキタジの思いも胸に、1日1日を大事に精一杯過ごしていきたいと思っています。
 
(このコーナーは第3木曜更新です)
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