ハリルジャパンの秋は、まさにアジア遠征漬けだ。
 9月8日にロシアW杯アジア2次予選のアフガニスタン戦(テヘラン)。そして10月、11月には2試合ずつ組まれており、アジア予選3試合(対シリア、シンガポール、カンボジア)に親善試合のイラン戦まで加わっている。

 2015年のマッチメークは、アジアでの戦いが中心になった。
 1月のアジアカップに始まり、6月からはW杯2次予選がスタート。8月には国内組で臨んだ東アジアカップと、全17試合のうち何と16試合が対アジア勢なのである。アジア以外の国と顔を合わせたのは3月、ハリルジャパンの初陣となったチュニジア戦のみ。親善試合も4試合中3試合がアジア勢との対戦となっている。

 ここまでアジアに集中したのは4年前の2011年以来。この年もアジアカップとW杯アジア予選があり、15試合中13試合が対アジアとなっている。つまり今回が異例というわけでもない。アジア予選を戦っていく準備として親善試合もアジア勢とのマッチメークを優先する事情は理解できる。

 今回、筆者が注目したのが「10・13」のマッチメークだった。
 日本代表は10月8日にオマーンのマスカットでシリアと戦った後の日程が予選の「空き日」となっていた。日本に帰国して親善試合を行なうとなると欧州組はマスカット-日本-欧州と移動で大きな負担を強いられる。アウェーマッチの親善試合を行なうには、このうえないシチュエーションだと言えた。

 アジアの戦いと併行して、世界との距離を測っていく。その意味でも、欧州のアウェーマッチが一番いいのだが、今はユーロ2016の予選真っ最中。加えて欧州サッカー連盟(UEFA)は公式戦がない場合でも、「ネーションズリーグ」立ち上げに向けて欧州勢同士の戦いを優先させているという事情もある。

 マスカットから移動することを考えれば選択肢がそう多くないなかで、アジアの強豪イランとの対戦は決して悪くないマッチメークだ。
 イランは先のブラジルW杯にも出場し、FIFAランキング40位はアジア最上位である。日本との対戦は2005年8月以来、10年ぶりとなる。

 開催地テヘランのアザディ・スタジアムはアフガニスタン戦でも使用することになるのだが、イラン戦となれば約10万人収容のスタジアムを相手サポーターが埋め尽くす“完全アウェー”となるだろう。

 2005年3月、ジーコジャパンのドイツW杯アジア最終予選で筆者は一度、アザディ・スタジアムを訪れている。
 今でも強く記憶に残っている。
 試合当日の午前中、何気なくホテルの部屋にあったテレビのスイッチを押すと、既にスタンドが満杯になっていたことに、まず驚かされた。まだ試合まで何時間もあるというのに、男性サポーターたちが声を挙げていた。

 スタジアムに足を踏み入れると、その殺気立った雰囲気に圧倒された。イランに対する10万人の野太い声援がジーコジャパンにプレッシャーを与え続けた結果、彼らは2-1で勝利をものにした。プレッシャー、ピッチ、環境……きっと今回もハリルジャパンにとってはいい経験となるはずである。イランにしてみれば、いくら親善試合といっても10万人の熱狂的なサポーターを前にして敗北は許されない。公式戦並みの緊張感のなかで試合をやれる意義は大きい。

 欧州勢とのマッチメークが難しくなっている以上、昨年のシンガポール遠征のように中立地でブラジルやアルゼンチンなど南米の強豪と対戦する手もある。しかし、それも簡単ではない。難しい場合は今回のイラン戦のようなマッチメークがあっていい。

 いずれにせよW杯はアウェーとなるため、協会があれこれとアウェーマッチの機会を増やして、経験値を上げようとしているなら歓迎したい。
 予選を戦いながら、ロシアW杯に向けた準備も進めていく。イランとの親善試合は最終予選をにらみつつも、ロシアへの準備の第一歩と捉えたい。

(このコーナーは第1木曜日に更新します)
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