2日、リオデジャネイロパラリンピックのアジア予選を兼ねたIBSAブラインドサッカーアジア選手権が東京・代々木競技場フットサルコートで開幕した。パラリンピック初出場を目指す日本代表(世界ランキング9位)は、アジアの強豪・中国代表(同5位)と対戦。日本は堅い守りで前半をスコアレスで終えたが、後半7分にセットプレーからFPワン・ヤーフォンに決められ、先制を許す。時間をうまく使う試合巧者に対し、反撃も及ばず無得点のままタイムアップ。0−1で惜しくも敗れ、初戦を落とした。その他の試合はイラン代表が5−0でマレーシアに、韓国代表が6−0でインド代表に勝利した。

(写真:タイムアップの瞬間、ピッチを叩いて悔しがる黒田)


 守備で奮闘も攻撃振るわず(代々木)
日本代表 0−1 中国代表
【得点】
[中国] ワン・ヤーフォン(32分)

 青いダイヤモンドの盾が、赤い矛に一突きされた。堅守が売りの日本だが、北京パラリンピック銀メダルの中国に先制を許す苦しい展開。日本に返す刀はなく、そのまま1点差で敗れた。

 2011年12月、仙台でわずかに届かなかったパラリンピックへの切符。あれから約4年の月日が経った。あの日、手からすり抜けていったチケットを東京で掴み取る。それが日本の青写真だった。奇しくも初戦の相手は、同じ中国。一度も勝ったことのない格上の相手だが、ここで叩けば最高のスタートを切れる。

 会場の代々木競技場のフットサルコートに特設されたスタンドには1000人を超える観客が集まり、前売り券は完売する盛況ぶりだった。キックオフが近づくと、選手たちにも緊張の色が見え始める。声援に応え笑顔を見せる者もいたが、FP川村怜は胸に拳を当て、気を高めていた。
(写真:ピッチへの入場を待つ選手たち。緊張感が伝わってくる)

 試合開始から攻勢を仕掛けてきたのは中国だった。FPのワン・ヤーフォン、ウェイ・ジェンツェンがドリブルで侵入してきた。ボールを持つ選手の逆サイドに必ず1人を待機させ、パスが通れば決定機となる状況を作る。対する日本は世界選手権でも奏功した守備戦術「ダイヤモンド」で対抗。フィールドプレーヤー(FP)4人で常にダイヤモンド型の陣形を保ち、堅い守備ブロックを築いた。シュートは打たれても、コースを封じているため、身体を張って止めるか、枠を外れていくかのどちらかだった。

 しかし、中国は攻撃の手を緩めない。17分にワン・ヤーフォン、21分には途中出場のFPワン・ヂョウビンにドリブルからシュートを打たれ、ゴールを脅かされる。いずれも日本の守護神・佐藤大介がセーブし、事なきを得た。

 一方、日本の攻撃は前線で、ほぼ1人に任せるスタイル。川村怜、FP黒田智成が個人技で勝負した。ボールを奪われれば、すぐに自陣へと戻る。典型的な堅守速攻型の戦法だった。川村、黒田の高速ドリブルで敵陣まで攻め上がるが、チャンスらしいチャンスは作らせてもらえなかった。そのまま互いにゴールネットを揺らせぬまま、試合をスコアレスで折り返した。

「中国を分析した上で、我々の中には後半にチャンスがあると思っていたので、後半勝負というところはゲームプランにありました」。魚住稿監督が言うように日本としては、ほぼ思惑通りの前半だった。だが後半がスタートしても、依然として中国が攻め、日本が守るという我慢の展開が続いた。
(写真:分厚い守備ブロックで相手を追い込む)

 突破力のあるワン・ヂョウビンが度々、チャンスメイク。4分と6分にドリブルで攻め上がると、シュートまで持ち込む。ここもGK佐藤が立ち塞がり、ゴールを割らせない。堅守を最後尾で支える31歳の守護神が凌いだ。

 しかし7分、ついに均衡は破られる。左コーナーキック(CK)からワン・ヤーフォンがゴール正面までドリブルで運ばれる。ワン・ヤーフォンはDFを振り切ると、右足を振り抜いた。ゴール左へと吸い込まれるグラウンダーのシュート。GK佐藤が伸ばした右足も届かず、ゴールネットが揺れる。

「ほんの一瞬、スポットにはまったようなところでシュートを打たれてしまった。シュート自体もいいものではなかった。アンラッキーなかたちと言えるかなと思いますね」と魚住監督は強がった。ピッチで対応していた黒田は「ほんの一瞬、厳しくいききれなかった部分があった。少しの甘さが出た部分を突かれてしまった」と反省する。2人が口を揃えた「ほんの一瞬」。これを突いてくるのが、世界のトップクラスのチームだろう。

 リードをしてからは、無理に攻めようとせず、自陣でボールをキープしようとする中国。日本もラインを上げ、反撃を仕掛けるがチャンスらしいチャンスをなかなか作れない。21分に川村がドリブルで敵陣に侵入し、シュートを放った。しかし相手GKにセーブされ、同点ゴールは奪えない。主将を務める落合啓士も「日本を研究してきていて、なかなかシュートを打たせてもらえなかった」と語るように、いたずらに時間だけが過ぎていく。

 結局、0−1のスコアのまま試合終了のホイッスルが鳴った。同じ代々木の地で戦った昨年の世界選手権は過去最高の6位に入った。6試合1失点と鉄壁を誇った日本の堅い守備は、確かに世界を相手にも通用した。その一方で3得点の攻撃面が上へといくためには課題だった。一朝一夕で解決できる問題ではないかもしれないが、残念ながら光明は見えてこなかった。
(写真:試合終了後の挨拶でも前を向いていた落合キャプテン)

 ただ敗れたものの、黒田は「守備を完全に崩される場面はほとんどなかったと思うので、自分たちがやってきたかたちは今でも自信を持っていますし、世界に通じるものだと思っています」と胸を張る。落合も「自分たちがやっていることは何も間違っていない。自信も全く揺らいでいない」と言い切った。大会初日、勝ち点は失ったとしても、彼らの誇りまでは失っていない。

(文・写真/杉浦泰介)