ボクシングのWBCトリプル世界タイトルマッチが27日、東京・有明コロシアムで行われ、フライ級王者統一戦に臨んだ王者の亀田興毅(亀田)は、暫定王者のポンサクレック・ウォンジョンカム(タイ)に0−2の判定で敗れ、防衛に失敗した。ミニマム級では黒木健孝(ヤマグチ土浦)が王者のオーレドン・シッサマーチャイ(タイ)に挑んだが、こちらも0−3の判定で敗れ、王座獲得はならなかった。女子アトム級は王者の小関挑(青木)が、同級3位の挑戦者・申建主(韓国)を3−0の判定で下し、4度目の防衛に成功した。
(写真:流血し、苦しい表情の亀田)
<亀田父、激怒! 試合後は大荒れに>

「申し訳ないではすまへんぞ!」
「言い訳はききとうない!」
 試合後、敗れた亀田の控室からは怒声が鳴り響いた。物がぶつかる衝撃音も聞こえてきた。声の主は父・史郎氏だ。亀田側が怒りをあらわにした理由は2点ある。まずは5Rの判定。ラウンド中にバッティングで亀田が右まぶたをカットし、ポンサクレックに減点1が下された。さらに、その後もバッティングで試合が中断したが、レフェリーはポンサクレック側にも出血が認められたため、両者ともに減点をとらなかった。これはルールに乗っ取った正しい判定だったものの、試合後、疑問を呈した亀田陣営に対し、メキシコ人レフェリーが「私は(バッティング2回でポンサクレックの)減点を2回とった」と発言。「減点を取り消しにされた。2点減点やったら、興毅に流れは変わっとった」(史郎氏)と激怒し、WBCや日本ボクシングコミッション(JBC)のスーパーバイザーが控室に入って説明を求められる騒動に発展した。
(写真:報道陣に怒りをぶちまける史郎氏)

 さらには、その場でJBC安河内剛事務局長が「もし、こちらのミスで減点をとっていないのであれば申し訳ない」と非を認めるかのような発言をしたことで、史郎氏の怒りは沸点に。亀田サイドは前日深夜にポンサクレック陣営がWBCの立会人が宿泊したホテルの部屋を訪問した点も問題視しており、史郎氏は「贔屓目に見んでも興毅は勝っとった」と採点に関する“疑惑”をにおわせ、再戦を要求した。「今まで我慢しとったけど、もっともっと言いたいことはある。安河内はクビや。絶対クビにする」。最後はそう吐き捨てた。

 しかし、WBCが改めて確認したところ、3者のジャッジペーパーには減点1しか記されておらず、レフェリーも「コンフューズ(混乱)していた」と控室での“減点2”発言を撤回。WBC側も証拠として採点用紙の現物を示し(写真)、「1度ペーパーに書き込んだジャッジは誰も書き換えられない」と、5Rの判定はポンサクレックの減点1で間違いないと結論づけた。またポンサクレック陣営が前夜にホテルを訪問したことについては「バッティングのルールについて分からない点を確認しに来た」と説明。誤解を招く行為であったことは認めたものの、「ルールに関する質問はいつでも受けるし、それを答える立場にある」として問題はないと強調した。

 ただ、亀田サイドは納得しておらず、WBC、JBCの会見にジムの五十嵐紀行会長が乗り込んで「我々に報告もなしに、結論を発表するのはおかしい」と不満を爆発。プロモーターの宮田ジム・宮田博行会長が仲裁に入り、レフェリーが直接、亀田に控室での発言撤回と謝罪をすることで何とかその場を収めた。

 3者のジャッジは112−116、112−115、114−114で、減点1が2に変わったところで、試合の結果は変わらない。そもそもレフェリーは試合に関するコメントを許されておらず、不用意な発言を行ったことが混乱に拍車をかけた。しかもレフェリーをはじめ、WBC、JBCのスーパーバイザーが亀田の控室を訪れた対応も適切ではない。加えて史郎氏はセコンドライセンス無期限停止処分中の身。判定に対する“抗議権”はないはずだ。疑問があるならジム会長を通じ、WBCの控室で受け付けるといった毅然とした態度をコミッションサイドがとるべきだった。

 史郎氏は「贔屓目に見んでも興毅は勝っとった」と発言したものの、亀田はパンチ力のあるポンサクレックを前に、まさに亀のように防戦を強いられた。試合前に豪語していたKOどころか、見せ場もあまりつくれなかった。ホームタウンディシジョンとはいえ、むしろドローとつけたジャッジがいたほうが不思議なくらいだ。

 ビッグマウスで人気を博した亀田だが、2万人以上を集めた昨年11月の内藤大助(宮田)とのタイトルマッチとは一転、この日の有明コロシアムには空席が目立った。試合終了直後に結果を聞くことなく、帰り始める観客も多かった。ファンは正直だ。残念ながら今の亀田には、ボクシングファンを魅了し、真の王者として君臨するだけの実力はまだ備わっていない。それを一番、自覚したのは拳を突き合わせた本人だったのではないか。リングを降りる前、プロ23戦目で初黒星を喫した“前王者”は素直に観客席に向かって深々と頭を下げた。試合中、試合後ともに、スッキリしない戦いの中で、その姿だけはさわやかに映った。
(写真:発表された観客数はわずか1900人だった)

(石田洋之)