ラステンバーグのロイヤル・バフォケンには歓喜の輪が広がっていた。
 自国開催以外では3大会目にして初のグループリーグ突破。それも2勝して勝ち点6を挙げたのだから、出来過ぎだと言っていい。

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 堅守で鳴るデンマークは日本に勝利する以外に突破の道がないために前がかりにならざるを得なかった。前半12分すぎまでの猛攻を耐えたことで風向きが変わり、逆にデンマークのスペースを利用して押し返すことができた。放ったシュートは、日本が戦った試合のなかで最も多い15本。まさに攻撃は最大の防御、であった。
 だが、この試合で注目したいのは“修正力”だ。

 この試合、岡田武史監督はフォーメーションを4−2−3−1に変え、長谷部誠を2列目に出した。この意図を岡田武史監督は「引き分けでもいいということで、受けに回るような戦い方をしたくなかった。立ち上がりは少し攻撃的な布陣で臨んだ」と説明した。
 アンカーがこれまでスペースのケアを対処してきた3ボランチに慣れていたせいもあるだろうが、トマソンを中心に最終ラインと中盤の間をうまく使われてしまっていた。岡田監督が前半12分に長谷部をボランチに下げて4−3−3システムに戻すまではピンチの連続だった。
 これまでの岡田ジャパンであれば建て直しに時間がかかったはず。しかし、3ボランチに戻してからは守備が安定し、スペースを消した。そして徐々に攻撃にベクトルを向けていくのである。守備に対する自信が芽生えているゆえにすぐさま修正できたのであろう。
 デンマークが後半に入ってパワープレーを仕掛けてきたときも、最初は危機を招いていた。押し込まれそうになると中盤の選手が下がってカバーに回り、中澤佑二と闘莉王がことごとくクリアして周囲がこぼれ球を拾うことを愚直にこなした。これは指揮官の指示ではなく、選手たち自身が判断して、修正していたのだ。

 指揮官は、選手たちが自主的に判断してパワープレーを封じたことを何より喜んだ。
「(デンマークが)パワープレーをしてきた時に、(選手たちが)ベンチに向かって『(阿部)勇樹を下げるのか、下げないのか』ということを尋ねてきたんです。でも私の指示の声は通らなかった。そうしたら彼らは自分たちで判断して、相手が4枚になったら(中盤の)2枚が下がって対応していた。これはもう素晴らしいことだなと。ここまでできるようになったというのは、自分にとってうれしい驚き」

 ゲームキャプテンを務める長谷部誠は試合後「今、簡単にやられる気はしない」と、自信を深めている。相手の長所を消すことを優先する守備的なサッカーではあるが、守備の自信が攻撃にも波及してきた。この日はサイドチェンジや長短のパスで何度もチャンスをつくった。これまで中盤、最終ラインでのボールキープ率が高かったが、この日は中盤から前線にかけてのキープ率が高かった。高い位置でボールをキープできていたことで、デンマークに押し込まれなかったのである。

 攻撃の課題を口にしてきた長谷部もこの日ばかりは納得の表情を見せた。自身も松井大輔のスルーパスに反応して前に飛び出してシュートを放っている。ゴール右上にわずかに外れてしまったが、攻撃に形ができつつあることを実感してもいる。
「攻撃に対する意識を持ち出してオランダ、デンマーク戦と段階を踏んでよくなっていると思う。攻撃の意識を持っていないと前に出ていけないし、厚みが出ないですから」
“修正力”は守備だけでなく、攻撃においても同じ。ラッキーな部分だけで決勝トーナメントに進めたわけではなく、今の岡田ジャパンは結果を伴って、日々たくましくなっている印象を受ける。

 決勝トーナメント1回戦の相手は、南米の強豪パラグアイ。南米予選を3位で突破しており、日本からすれば格上だ。デンマークのようには攻撃のスペースを与えてくれないだろう。テクニックがあり、慎重な試合運びをしてくる嫌な相手ではあるが、状況に応じて修正していければ、必ずやチャンスは来る。
 日韓大会でトルコに決勝トーナメント1回戦で敗れたのは、最低限の目標をクリアしたという気の緩みがなかったわけではないはずだ。あのときの教訓を活かすべく、決勝トーナメントは新しいスタートだと思うべきだ。
 長谷部はひとしきり笑みを浮かべた後で、すぐさま真剣な表情を取り戻した。
 目標がこの先にあることをチーム全員が共有して、パラグアイに挑むことを望む。

(このコラムは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。