3日、南アフリカワールドカップ準々決勝がヨハネスブルグ・エリスパークで行われ、パラグアイ(FIFAランキング31位)とスペイン(同2位)が対戦した。前半からペースを握ったのはパラグアイだった。出足鋭い前線からの守備でスペインの勢いをそいでいく。前半は互いに無得点で折り返すと、後半10分過ぎには両チームにPKのチャンスが生まれるも、ここはGKがセーブをみせスコアは動かない。それでも後半はボールを保持しつづけたスペインが38分にFWダビド・ビジャ(バルセロナ)が今大会5ゴール目を決め、このゴールが決勝点となる。1対0でスペインが辛勝し、出場した中では11大会ぶりの準決勝進出を果たした。

 パラグアイ、決勝トーナメント初ゴールならず(ヨハネスブルグ・エリスパーク)
パラグアイ 0−1 スペイン
【得点】
[ス] ダビド・ビジャ(83分)

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 決勝トーナメント1回戦から中3日で準々決勝に臨んだ両国は、対照的な考えに基づいた先発メンバーとなった。日本との120分間プラスPK戦を勝ち残ったパラグアイは前戦から先発を6名入れ替えてきた。疲労が蓄積する状況で、少しでもフレッシュな選手をピッチに揃えた。対するスペインはポルトガル戦と一人もメンバーを変えずに試合開始の時を迎えた。完勝だった前試合の流れをそのまま引き継ぎたいというビセンテ・デル・ボスケ監督の狙いが見てとれた。

 立ち上がりから動きのいいパラグアイが試合を掌握する。開始早々の1分、FWオスカル・カルドソ(ベンフィカ)がゴール前で落としたボールをMFエドガル・バレット(アタランタ)が右足でシュート。これはGKイケル・カシージャス(レアル・マドリッド)の正面を突くが、守備的にくるかと思われた序盤から積極的な姿勢をみせた。

 対するスペインはツートップの動きが重くなかなかボールが収まらない。特にフェルナンド・トーレス(リバプール)のプレーはキレを感じさせず、今大会で調子の上がらないストライカーは今日も厳しい戦いを強いられた。

 パスこそ回るもののなかなかゴールの予感を感じられないスペインにとって準々決勝は鬼門だ。スペインが最後にベスト4入りを果たしたのは1960年ブラジル大会(4位でW杯過去最高成績)。その後、82年スペイン、86年メキシコ、94年アメリカ、02年日韓大会と4度も準々決勝の壁に跳ね返されてきた。スペインの前半の出来を見ると、「今大会もベスト4入りは難しいのか」と思わせるような内容だった。

 一方のパラグアイは日本を破って初のベスト8入りを果たしたものの、今大会で4回目となる決勝トーナメントでいまだにゴールを決めたことがない。スペインが苦しんでいる時間にゴールを決めておきたかったが、カシージャスの前になかなかチャンスを生かすことができなかった。

 後半に入ると、試合は目まぐるしく動く。12分、パラグアイ左サイドからのコーナーキックをバレットがゴール前に入れた際、PA内でカルドソと激しくポジション争いをしていたDFジェラール・ピケ(バルセロナ)が相手の腕を掴んだとしてPKの判定が下る。それと同時にピケにはイエローカードが示された。キッカーはカルドソだ。09−10シーズンポルトガルリーグ得点王の放ったシュートに対し、カシージャスが完ぺきな読みをみせガッチリとボールをキャッチする。スペインは絶体絶命のピンチを切り抜けると同時に、パラグアイは同国決勝トーナメント初ゴールのチャンスをフイにしてしまう。

 さらにその3分後、MFシャビ・アロンソ(レアル・マドリッド)のロングパスに抜け出したビジャがPA内に侵入すると、今度はDFアントリン・アルカラス(ブルージュ)がファウルを犯しPKの判定。アルカラスにもイエローカードが出された。PKを蹴るのはシャビ・アロンソ。スペインの中盤を操るパサーは冷静にゴール左にシュートを蹴り込みスペインが先制したかと思われた。しかし、主審はシュートよりも早くスペイン選手がPA内に入ったとしてPKのやり直し指示する。一旦入ったPKが取り消されて動揺が走ったのか、シャビ・アロンソが2度目に蹴ったコースはGKフスト・ビジャール(バリャドリード)に完全に読まれ、シュートは弾き返される。こぼれたボールにセスク・ファブレガス(アーセナル)がつめた際、ビジャールがファウルで止めたようにも見えたが、これは主審が流し再びPKとはならなかった。膠着していた試合は二つのPKで盛り上がりをみせたものの、ゲームキャプテンでもある両ゴールキーパーがスーパーセーブを連発し、互いにチームの窮地を救った。

 その後はスペインが攻撃する時間が多くなる。18分にはMFアンドレス・イニエスタ(バルセロナ)がカーブをかけたミドルシュートを狙うも、これもビジャールのセーブで得点にはならず。さらに30分には相手のクリアボールに反応したMFシャビ・フェルナンデス(バルセロナ)がダイレクトでゴールを狙う。これもゴール左へわずかに逸れてスコアは動かなかった。

 このまま延長戦に突入するかという雰囲気になりかけていた38分、待望の先制点が生まれた。カウンター攻撃でボールを持ったイニエスタが自らドリブルを仕掛けてゴール前へと侵入していく。DF2人のスライディングをかわすと、センターバックを引きつけ右サイドへとラストパス。途中出場のペドロ・ロドリゲス(バルセロナ)がこれをしっかりとコントロールし、右足でシュート。ボールは左ポストに直撃し、ピッチ内へと戻されるが、これにいち早く反応したのはビジャだった。落ち着いてボールを足元に入れてシュートを打つ。ボールは一旦右ポストに当たり、ゴールライン上を這うように転がると左ポストへ。そのままゴール内側へと弾かれゴールネットを揺らした。ビジャが得点ランク単独トップに立つ今大会5ゴール目をあげ、スペインが1点をリードした。

 点を取るしかなくなったパラグアイはカルドソ、ロケ・サンタクルス(マンチェスター・シティ)、さらに失点後に投入されたルーカス・バリオス(ドルトムント)にボールを集め反撃の機会をうかがう。すると44分にビッグチャンスがやってくる。右サイドからのスルーパスに抜け出したバリオスがPA内でシュート。これはカシージャスが体の正面で受けボールを弾く。さらにそこへつめたのはサンタクルスだ。DFを振り切りフリーでシュートを放つが、これはカシージャスが右足でセーブしゴールにはならず。決定機を2度も阻まれたパラグアイにシュートチャンスが巡ってくることはなかった。

 守護神が最後で踏ん張りをみせたスペインがパラグアイを完封し1対0で試合終了のホイッスル。スペインは5度目の挑戦で久々の準々決勝突破となった。次戦はW杯で無類の強さを発揮するドイツとの対戦だ。準々決勝の戦いぶりは好対照となった両国。しかし、大会前の評価ではスペインが圧倒的に有利だったはずだ。今大会最も評価されているドイツを相手に、欧州王者がどのような戦いをみせるのか。好調ビジャを攻撃の軸にすえワントップで試合に臨むかもしれない。EURO08決勝の再戦となるが、ビジャは決勝を欠場しており、この試合にかける意気込みは相当高いはず。得点王のタイトルもかかっており、彼の活躍がスペインをさらなる高みへと導く。今大会では好不調の波が激しいスペインは、準決勝ではどちらの顔をみせるのか。いいリズムで戦いを進めることになれば、大会屈指の好ゲームとなりそうだ。

(大山暁生)

【パラグアイ】
GK
ビジャール
DF
ダ・シルバ
アルカラス
モレル
ベロン
MF
リベロス
V・カセレス
→ルーカス(84分)
バレット
→ベラ(64分)
サンターナ
FW
バルデス
→サンタクルス(72分)
カルドソ

【スペイン】
GK
カシージャス
DF
プジョル
→マルチェナ(84分)
ピケ
カプテビラ
S・ラモス
MF
ブスケッツ
X・アロンソ
→ペドロ(75分)
シャビ
イニエスタ
FW
ビジャ
F・トーレス
→セスク(56分)