いいバッターはボール球を振らない。その典型が王貞治だろう。ホームラン868本は偉大だが、ある意味、通算四球2390は、それ以上に偉大と言っていい。

 王は語った。「僕は最初から四球を狙っていたわけではない。打つべき球がくるまで待っていたら、自然に(四球が)増えていったんです。というのも、難しいボールをヒットにできる確率は低い。甘い球を待って、失投を見逃さずに打つ――。それがバッティングのスタイルでした」

 同じことを語っているのが巨人やヤンキースなどで活躍した松井秀喜だ。「ボール球を振らない」ことこそが「(打者にとって)永遠のテーマだ」と松井はスポニチ紙上(12月5日付)で述べている。

「狙い球を絞り、悪球に手を出す確率を低くする。そして打席での目付を工夫する。(中略)軸となる速球の軌道で投手の手から捕手までラインを引き、その周辺の甘いところを打つような意識だ」

 2人の名人の意見をまとめれば、難しいボールは、なかなか打てない。甘いボールを我慢強く待ち、一振りで仕留める――。こういうことだろう。

 打者にとってバットを振り込むことが大事なのは言わずもがなだが、それ以上に重要なのがボールを見極める技術である。選球眼を磨かない限り、一流の打者にはなれない。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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