今年の日本シリーズを見ていて、あらためて我が意を強くした。自分の考えは、そんなに間違ってはいなかった、と。

 今季が始まる頃、私は「カープは優勝も可能だ」と、「少なくとも巨大戦力の巨人に次ぐ2位にはなれる」と言っていた。これに対しては、まるであわれむような目で「あぁ、そうなるといいですね」と冷たく反応する人がほとんどであった。かわいそうなカープファンだな、この人、といわんばかりに。

 しかし、先発4本柱(前田健太、ブライアン・バリントン、野村祐輔、大竹寛)がみんな2ケタ勝てる力を持っていて、セットアッパー今村猛、クローザーのキャム・ミコライオも揃っているのである。これで上位に行けないはずはない。

 結果はご承知のように3位である。しかも、69勝72敗3分と3つも負け越し。これで満足するほうがどうかしている。そう言うと、「まぁ、よかったじゃないですか。クライマックスシリーズに行けたんだから」と、またまた上から目線でなだめられる。

 そうだろうか。日本一になった東北楽天とカープに、そんなに戦力差がありますか?

 向こうには、なんたって田中将大がいる。ひとりで貯金24。そんな投手、他にどこにもいない。そう言われれば話は終わりである。

 しかし、田中ほど超人的ではないにしろ、カープには前田健太というエースがいる。これはセ・リーグの他球団、たとえば巨人の内海哲也、阪神の能見篤史らとくらべれば抜きん出た存在である。

 楽天には先発の柱・則本昂大や美馬学がいる、というなら、カープには野村もバリントンもいる。セットアッパー、クローザーはむしろカープのほうが上である。

 では打者はどうか。
 岡島豪郎、藤田一也、銀次という1~3番がそんなに強力だろうか。カープの丸佳浩、菊池涼介、キラ・カアイフエの1~3番と比べて、大きく見劣りしますか? 私はそうは思わない。

 藤田は横浜DeNAからのトレードで花開いたが、岡島、銀次は楽天が育てた左打者である。その点で、たとえば丸や松山竜平とよく似た存在だ。

 楽天にはアンドリュー・ジョーンズ、ケーシー・マギーという大物外国人の4、5番がいるではないかとおっしゃるかもしれないが、少なくとも日本シリーズで打線のポイントになったのは岡島や銀次だった。

 つまり、楽天はカープと似たところの多いチームなのである。向こうは東北で圧倒的な人気を誇るけれども、カープも関東圏のファンの盛り上がりなど、人気上昇の機運にある。カープだって楽天のように優勝できるはずなのだ。

 一番うらやましかったのは、左投手(たとえば内海や杉内俊哉)に対して、星野仙一監督が、岡島も銀次もスタメンから外さなかったこと。しかも、この2人の左打者が、内海や杉内にくらいつく迫力をみせたことだ。

 今季、野村謙二郎監督は、左投手に対して松山をベンチに下げることが多かった。たしかに松山は左投手に対する打率が低い。しかし、経験しなければ、打てるようにはならないだろう。

 生来、軟弱な人間なので、「闘将」などと呼ばれるコワモテの方は好きになれないのだが、この1点において、星野監督を尊敬する(先の1~3番の比較で、相手投手によって、3番にキラではなく右打者の梵英心が入った場合は、やはり少々小粒な感じは否めない)。

 仮に大竹がFAで去っても、それはそれでいいではないか。では、大瀬良大地が10勝できるように育てましょう。篠田純平や福井優也や中村恭平も忘れずに育てましょう。このうちの、誰も育てられないようなら「育成のカープ」の看板は取り下げたほうがいい。

 なによりも、負け越しの3位で満足をしてはいけない。ペナントレースで優勝しなきゃ。それが勝者のメンタリティというものだ。

(このコーナーは二宮清純が第1、3木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2木曜を担当します)
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