10月5日、前田健太のシーズン最終登板はたしかに不安を残した。その前の登板で打球を右ヒザ下に受けた影響だろう。明らかに、つっ立って、上体で投げていた。

 今年の2月を思い出す。WBCに向けての強化試合(広島戦)も、肩の不調を抱えて、それこそ腕だけで投げていた。

 にもかかわらず、WBCではご存知の通りの活躍をしたのだから、その調整能力には恐れ入る。今回もクライマックスシリーズ(CS)初戦に向けて、WBCのときと同様、鬼の調整をしてくれることを祈る――。

 それにしても、このところ、会う人ごとに祝福される。「CS初進出、良かったですね」……。

 いえいえ、どうもどうも、と挨拶しながら、あらためて気づくのは、東京(関東圏)のカープファンが、近年(おそらく、ここ6~7年)、飛躍的に増えていることだ。たしかに、東京ドームに行っても、神宮球場に行っても、交流戦で西武ドームやQVCマリンに行っても、赤いユニホームを身にまとった人たちが目につく、彼らは、特に全員が広島出身ということではないそうだ。

 なぜ、東京のカープファンは増えたのか。

 知人A「おカネの力で数多くのいい選手を集めた強大なチームを、自分たちで努力して力をつけた選手たちが打ち破る姿が、仕事勤めの人々の共感を呼ぶんじゃないの?」

 知人B「カープは無名な選手たちを自分たちで育成して強くなったじゃないですか。そのイメージが強い」
 たとえば、といって彼は大野豊や金本知憲の名前をあげた。この解釈は、きっと、ちょっと古いな。

 知人C「アベノミクスとかいったって、要するに経済格差は広がっているじゃないですか。だから、おカネじゃなくて、自分たちの力で強者をやっつけてほしい、という願望を、いわば代償行為としてカープに投影しているんじゃないかな」

 ま、解釈は人それぞれ。このような解釈で現実が十分に説明できるとは、もちろん思わない。

 ただ、カープは「無名の選手を育成して強くなっている」というイメージを、多くの人が持っていることは、どうやら間違いないらしい。

 そりゃ、高橋慶彦や大野や金本の時代はそうだったかもしれない。

 しかし、今はどうだろう。前田健太は育成したというより、本人に確固とした考えがあって、自力で成長したように思う。野村祐輔は1年目で既に完成していた。つまり育成したのは広陵高であり、明治大であって、カープではない。

 ブライアン・バリントンは、もちろんアメリカで力をたくわえた。大竹寛は甲子園で登板していない(2年生の夏は出場するも登板はなかった)にもかかわらず、高校日本代表に選ばれたくらいの逸材である。彼の素質からしたら、肩の故障などがあり、むしろここまで伸び悩んだというほうが近い。

 左腕で期待の中村恭平はどうか。齊藤悠葵は? 若手捕手育成は喫緊の課題だが、白濱裕太はどうした? 會澤翼は? 堂林翔太のケガは気の毒だったが、故障以前から、今年のバッティングは去年よりも明らかに退歩していた(守備はだいぶよくなっていたけれども)。

 白濱裕太、佐藤剛士、鈴木将光、宮崎充登、前田健太、篠田純平、安部友裕、岩本貴裕、今村猛、福井優也、野村祐輔。

 これ、ここ10年間のカープのドラフト1位選手である(2012年の高橋大樹は1年目なので、2011年までの9年とした。ただ、実際には、去年のドラフトでは2位の鈴木誠也のほうが期待できそうだ)。

 もちろんマエケンが突出して成功し、野村がそれに続く。今村も大成するかと思ったが、今年は、苦しいシーズンだった。それ以外の8選手は(引退した人も含め)、育ったとはいえないと思いませんか。 

 もちろん、10人獲って10人が1軍レベルに成長するはずはない。丸佳浩や菊池涼介が育ったではないかという反論もあるだろう。要は確率の問題である。冷静に見れば、ここ数年、むしろ育成できていない、という側面のほうが強いのではないか。

 多くの人は、巨人や阪神と比べるだろう。そりゃ杉内俊哉も西岡剛もカープにはいない。一方で、球団の売りであるはずの育成も、決して順調とはいえないのが実情だ。

 せっかく人気が盛り上がろうとしている今こそ、千載一遇のチャンスである。球団は育成する力をどうやって再構築するのか。実は、そこが一番問われている。

(今月からこのコーナーはリニューアル! 二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

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