9日、日本野球機構(NPB)は野球殿堂博物館で会見を開き、日本代表「侍ジャパン」の新監督に小久保裕紀氏が就任することを正式に発表した。同氏は福岡ソフトバンク、巨人でプレーし、昨季限りで現役を引退。野球解説者として活動していた。小久保新監督は「プロ野球のみならず日本野球が結束してひとつになる。そのトップチームの監督だという自覚を持って取り組み、強いチームにしていきたい」と抱負を語った。小久保ジャパンの初陣は11月7〜9日、台北で台湾代表との3連戦に臨む。背番号は福岡ダイエー、ソフトバンク時代の「9」にちなみ、「90」に決まった。
(写真:新しく完成した侍ジャパンのシンボルマークをバックに意気込む小久保監督)
 現役引退から1年、指導者経験がない中での大役だ。
「監督経験のない私が引き受けていいものかという迷いもあった」と本人も明かす中、決め手となったのは「日本野球のために」との思いだった。
「できるかできないではなく、やるかやらないか。勇気を持って決断しました」

 2006年にWBCがスタートして以降、日本代表の監督人事は毎回のように難航してきた。3月の第3回大会では山本浩二監督が“火中の栗”を拾う形で指揮を執ったが、3連覇を逃した。当然、2017年開催予定の第4回大会では世界一奪還が至上命題だ。また、NPBでは日本代表の常設化を決め、プロ、アマ、女子野球が結束するかたちでの新しい侍ジャパンを目指している。

 そんな中で将来を見据え、NPBが監督選考で重視したのは「若さ」「フレッシュさ」だった。小久保監督は8日に42歳の誕生日を迎えたばかり。現役時代はキャプテンとしてチームを牽引し、リーダーとしての素質も十分だ。侍ジャパンの沼沢正二事業部長(NPB事務局次長)は「アマチュアと一緒にプロジェクトがスタートするにあたって、新鮮さと求心力、統率力を兼ね備えている」と就任を打診した理由を語った。

 契約期間は2017年のWBCまで。これまで大会や試合のたびに選ばれてきたオールプロの代表監督と比べると、新指揮官は長期間、代表を率いることになる。そのためコーチ陣も若さを前面に押し出した人選になりそうだ。小久保監督は「まだ検討中」としながら、「国際経験、コーチ経験が豊富な方ということにはならない」と現役からあまり離れていない同年代の人材で“組閣”を行う考えだ。

 最初に指揮を執るのは11月の台湾遠征になる。「勝つことが大前提だが、中長期的な視野で若いメンバーが中心」と小久保監督はメンバー選考の方針を打ち出した。「トップチームであるという魅力、国を背負って戦うという意義を選手たちに伝え、ぜひともトップチームに入りたいというチームにしていかないといけない」と4年間をかけて最強の侍ジャパンをつくりあげるつもりだ。

 とはいえ、サッカーなどの代表とは異なり、野球の場合はシーズン中に国際試合を組むのは極めて難しい。沼沢事業部長は「(国際試合は)毎年のように予定している」と語るものの、代表招集はオフシーズンに限られ、どのくらいの試合ができるのかは未知数だ。4年後のWBCまでに予定されている大きな国際大会は2015年に日本で開催される「プレミア12」(世界のトップ12カ国、地域による対抗戦)くらい。プロ、アマの壁も依然として残り、他競技のように代表チームを日本全体で育てていく環境にはなっていない。

 今回の新生・侍ジャパンの船出にあたり、NPBでは「すべての世代で“世界最強”になることを目指して戦います」とのメッセージを発表した。そのためには組織の枠を超えて国内で一致団結できる体制構築と、代表戦が全選手たちの目標となるような仕掛けづくりが必要だ。小久保監督が4年に渡ってトップを務める意義が現われる戦略を打ち出すことが求められる。