見ていて、つらくなってしまった。8月4日の東京ヤクルト戦である。もちろん、カープは7-4で勝利した。めでたいことである。

 しかし、なんといっても未だに心にひっかかるのは、7-3とリードした8回裏の今村猛の登板である。

 ご承知の通り、結果はさんざんだった。
 
 先頭の森岡良介に、ボール、ボール、ストライク、ボール、ボールで四球。続く山田哲人には、ボール、ボール、ボール、ボールのストレートの四球。端的にストライクが入らない。あっという間に無死一、二塁の大ピンチを招く。

 次打者は相川亮二。ストライク、ボール、ボール、ボール、ストライクで、ようやくフルカウント。勝負の6球目はスライダーだったが、これがセンター前へのフライとなる。丸佳浩が猛然と前進してスライディングキャッチを試みるも、捕球できず、ヒット。無死満塁。
 
 ここで野村謙二郎監督は諦めて、ピッチャー交代を告げる。リリーフした永川勝浩がなんとか粘って1失点に切り抜けたことが、この日の勝因である。

 当然、誰もが今村を責めたくなる。上体だけで投げている。手投げだからボールに力がない……。たしかに多くの評論家のご指摘の通りである。いいときには148キロから150キロ超を記録するストレートも、この日は力なく、せいぜい143キロ。

 だけど、これ、どう考えても悪いのは今村ではない。起用した首脳陣である。もっといえば、そのトップである野村監督である。何度でも言うが開幕戦から不振とわかっていて、とにかく使い続けた。

 今村は1度、6月末に2軍に落ちた。そして再び1軍に上がってきた。当然、2軍で再調整し、いいときの状態に近くなったのだろうと思った。

 しかし、結果はほとんど変わっていなかった。2軍で何をやったのだろうか。本人と言うより、球団の姿勢の問題である。8回を任せる貴重な戦力だという首脳陣の評価はわかる。立ち直ってほしいという親心から、この日も4点リードの場面で起用したのだろう。

 だが、この親心は、少々残酷なのではあるまいか。迎えた打者は、ウラディミール・バレンティンではない。森岡と山田だ。この2人に9球投げて、8球ボールである。しかも明らかなボール。もはや、そのような状態になってしまっているのだ。

 これだけ不振が続けば、精神的な葛藤があるだろう。1年前に自信を持って投げていたストレートは、いまや、どうなることかという不安とともにしか投げられない。
 
 まず、このような状態に陥らせてしまった首脳陣の起用法が問われるべきである。

 そして、今村には激励をこめて、永川を見よ、と言いたい。

 永川もどん底を味わった。まだ完全復活とはいえない。しかし、フォークとストレートだけだった投手が、スライダーを身につけて必死でプロの世界を生きのびようとしている。あの無死満塁を、彼が1失点でしのいだことに、象徴的な意味がある。

 好漢・今村の才能を惜しむ。そして、今、彼には時間が必要なのだと言いたい。目先の1度の好投を期待するより、もう1度、自分のピッチングを組み立て直す時間を与えてあげるべきである。永川に今、光明が見えるように、今村も必ず復活できるだけの力はあるのだから。

(このコーナーは二宮清純と交代で毎週木曜に更新します)
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