たとえ苦い記憶でも、決して忘れてはならない試合、というのはあると思う。
 
 6月2日のオリックス戦は、まさにそういう試合だった。

 オリックス先発は西勇輝、カープは野村祐輔である。

 あまりにも印象深いのが3、4回の攻撃だ。3回表、7番・小窪哲也は西の変化球になんとか合わせたかに見えたが、打球はセンター前に抜けるどころか、ショートの前で失速。力ないショートゴロに終わる。不振の堂林翔太に代わっての先発出場だったが、小窪の非力さがあからさまに出た一打だった。

 と思ったら、次打者は小窪よりも小柄である。誰だろうと思ったら、ルーキー上本崇司だった。西の投球にまるでついていけずに三振。

 9番は倉義和。倉は好きな捕手だが、打てないことは多くの人がご存知の通り。ライトフライでチェンジ。

 続いて4回表。1番に戻って安部友裕。俊足も、打撃は非力には違いない。ピッチャーゴロ。2番・中東直己、同じく、ピッチャーゴロ。

 次に3番・丸佳浩が出てきて、ホッとした。ようやく1軍の打者らしい打者が打席に入った、と安心したのである。

 たしかカープは貧打線に悩んでいるのではないだろうか。それなのに、7番から順に小窪、上本、倉、安部、中東と5人も同じように非力なタイプの打者を並べる打線が、ありえるのだろうか。これは、長打力はないが俊足で好選手、という打者ばかり獲得してきた球団戦略の象徴のような打線ではないか。

 はっきり言えるのは、相手投手・西は、完全にカープ打線を見下して投げていた、ということである。たぶん、3回くらいで完封勝利を確信したはずだ。しかし、それはプロとして、あるまじきことではないだろうか(実際には9回2死から丸がソロホームランを放ち、かろうじて完封負けは免れたのだが)。

 野村祐輔もつらかった。オリックス打線は、1番・坂口智隆にはじまって、アーロム・バルディリス、李大浩、糸井嘉男と、なかなかの重量打線である。

 この日の野村は、明らかに球威がなかった。相手は、これは打てる、という確信をもって打席に入っていた。いくら変化球がコーナーにきても、いかんせんボールに力がない。もちろん、本来の実力でいえば野村は一軍の投手だが、少なくともこの日の投球だけをとれば、一軍の投手の球威ではなかった。6回9安打5失点。打者も明らかに見下して打っていたのだ。

 この日、カープでヒットを打ったのは、丸と松山竜平が2本ずつ。あとは安部のライト前の計5本。

 極論すれば、丸と松山だけが、プロの普通のレベルにある打者だと言えるだろう。西はダルビッシュ有のようなスーパーエースではない。この日の結果は、カープ打線が、2軍といって言いすぎなら、1.5軍レベルであったからにすぎない。逆に、丸、松山レベルの打者が打線にあと2~3人いれば、この日の西からは楽に3~4点はとれただろう。

(残る打者についても触れておけば、序盤戦大活躍の4番・廣瀬純は調子を落としてしまっていたし、指名打者のニック・スタビノアは打てそうにもなかった)

 その後も、丸と松山は結果を残し続けている。少なくとも先発する野手で、あと2人は丸、松山レベルの打者を育てない限り、カープの貧打は解消しない。

 その惨状は、ここまでの球団経営のひとつの結果とみなされても仕方ないのではないか。

 カープファンは、6・2を忘れてはならない。

(このコーナーは二宮清純と交代で毎週木曜に更新します)
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