8月から岡本克道監督の辞任に伴い、代行を務めることになりました。現役時代からこの時はこうすると常にシミュレーションしながら試合に臨んでいましたから、指揮を執るにあたって焦りや戸惑いはありません。勝つために何をすべきか、最善策を尽くしたいと考えています。
 BCリーグは今季が1年目。信濃に来るまで、独立リーグの選手にはNPB入りへひたむきに努力し、レベルが高いイメージがありました。しかし、実際に携わってみると、NPBを本気で目指す姿勢に欠けている選手が多いことに気づきました。言葉では「NPBに行きたい」と言っていても、その取り組みは漠然としていて不十分なのです。

 野球はチームスポーツといっても、プロは個の集合体。個の力がしっかり確立されなくては、NPBに行くことは不可能です。ならば、プレースタイルを磨くために、何をすべきかをしっかり考えなくてはいけません。日々、工夫を重ねながら質の高い練習を数多くこなし、試合に向けて準備する。試合が終われば反省し、次に生かす。この繰り返しが自らの実力を伸ばすのです。

 その点で、まだまだ信濃の選手たちはプロ意識が伴っていないと言わざるを得ません。ここまで折をみて選手たちには話をしてきましたが、完全に浸透しきっていないと感じます。

 そんな中、チーム内でプロとして高みを狙おうという意欲が一番に見えるのは、練習生から昇格した外野手の永冨翔太です。彼は「成長したい」「技術向上したい」という強い目をしています。現に外野の守備、走塁は抜群で、NPBでも充分、通用する能力を持っています。
 
 課題は打率1割台のバッティングです。しかし、このことを本人はしっかり自覚しています。大事なのは、独立リーグで打てるかどうかではなく、NPBで150キロ以上の速球を打ち返せる力を身につけること。半年間で内容は少しずつ良くなっています。今の打順は9番ですが、将来的には3番タイプ。まだ21歳ですから、これから大きく羽ばたいて、NPBスカウトに注目される存在になってほしいものです。

 現状、後期のチーム成績は9勝16敗4分と地区最下位。打線では本塁打(13本)、打点(52点)でともにリーグトップのラウール・レイエスが良くも悪くも中心です。彼が打てば勝ち、打てないと負けるという状態が続いています。

 レイエスは成績が示す通り、バッティングだけならNPBも狙える選手です。しかし、他球団の外国人がシーズン途中にNPB行きを果たした中、彼に声がかからなかったのは、物足りない部分があるからでしょう。

 たとえば走塁。凡打だからといって全力疾走を怠っていては好印象を受けません。NPBの編成は細かいところまで見ています。単に打つ、投げるだけでなく、グラウンド上での姿勢が改善すれば、もっと成績も安定し、上への道が開けるはずです。

 ピッチャー陣に関しては、僕は厳しい起用をしていると思います。これ以上は抑えられないと判断すればスパッと交代し、我慢して投げさせることはありません。ピッチャーにしろ、野手にしろ、交代させられた選手は、それを僕からのメッセージだととらえてほしいものです。大事な場面を任されないのは、自らの力が足りない証拠。「なぜ代えられたのか」を考え、次の出場機会につなげてほしいと思っています。

 残りは6試合。肩書は選手兼任とはいえ、個人的には僕が試合に出るリーグではないと開幕前から考えていました。残り試合も、若い選手に出番を与え、僕は采配に専念するつもりです。

 優勝の可能性はなくなりましたが、最後まで1試合1試合、全力で勝ちに行きます。その過程で、選手ひとりひとりが何をすべきかを見つめ、少しでも成長につなげていくことが大切です。


高橋信二(たかはし・しんじ)>:信濃グランセローズ監督代行
1978年8月7日、岡山県生まれ。97年、津山工高からドラフト7位で日本ハムに入団。03年にキャッチャーのレギュラーを獲得すると、04年には、打率.285、26本塁打、84打点の成績を残し、オールスターゲームに初出場。チームの4番も任される。08年から一塁手としての出場が増え、09年には初の打率3割をマークしてリーグ優勝に貢献。一塁手でベストナイン、ゴールデングラブ賞に輝く。11年途中に巨人に金銭トレードで移籍。12年からはオリックスでプレーする。14年オフに自由契約となり、信濃にコーチ兼任で入団。8月より監督代行を務める。NPBでの通算成績は917試合、打率.266、82本塁打、416打点。オールスター3度出場。
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