26日、第15回世界陸上競技選手権5日目が中国・北京で行われ、男子やり投げ決勝はジュリアス・イエゴ(ケニア)が92メートル72の今季世界最高で制した。新井涼平(スズキ浜松AC)は83メートルで9位。リオデジャネイロ五輪代表に内定する入賞には、あと一歩届かなかった。男子200メートル準決勝はウサイン・ボルト(ジャマイカ)とジャスティン・ガトリン(米国)の100メートルの金銀メダリストが決勝進出。日本勢のサニブラウン・アブデル・ハキーム(城西大城西高)は2組5位(20秒47)、藤光謙司(ゼンリン)は3組7位(20秒34)、高瀬慧(富士通)は3組8位(20秒64)で、いずれも準決勝敗退となった。
 世界の壁は厚く、そして高い。ここまで日本勢は入賞者ゼロ――。大会前に日本陸上競技連盟が掲げた「メダル2、入賞6」のノルマが空しく見える。

 男子やり投げの新井には、その“暗雲”を切り裂くような投てきを期待された。初出場の24歳は、予選で投げるたびに記録を伸ばし、全体2位でファイナリストの仲間入りを果たしていた。世界選手権同種目での決勝進出は2009年ベルリン大会の村上幸史以来だった。

 決勝でも新井は1投目から80メートル81、2投目で83メートル07と着実に記録を伸ばした。迎えた前半ラストの3投目。投げ終えた時点の記録上位8人までに4投目以降も投げられる権利が与えられる。ボーダーラインの8位の新井にはビッグスローが求められていた。

 助走へ入る前、新井は大きく吠えて、自らを鼓舞する。気合十分に走り出した。渾身の力を込め、北京の空へとやりを放ったが、勢い余ってラインオーバー。ファウルで記録なしとなった。「手応えがあったので残せれば……。自分の力不足です」と唇を噛んだ。

 その後の投てきで、前回大会王者のヴィテスラフ・ヴェセリー(チェコ)が83メートル13を投げ、新井は9位に陥落した。ファイナルまでの差はわずか6センチ――。惜しくも届かなかった。優勝したイエゴは、今季世界ランキング1位の90メートルスローワー。決勝でもパワフルな投てきで、92メートル72の今季世界最高をマークし、初優勝を飾った。

 サニブラウン、藤光、高瀬の出場者全員が予選を突破した男子200メートルも“20秒の壁”を打ち破れず、2003年パリ大会の末續慎吾以来の決勝進出はならなかった。

 サニブラウンは、予選同様ガトリンと同組に入り、5位に終わった。「さほど緊張はしなかったが、疲労感がいつもと違った」。サニブラウンの走りに切れ味は感じられなかった。それでも「やっぱり強いなと改めて感じた」とガトリンら世界トップの走りを傍で体感できたことは大きい。16歳のひと夏の経験は、トップスプリンターになるための大事なプロセスとなるはずだ。

 藤光と高瀬は“世界最速の男”ボルトと同組。ボルトはフィニッシュ直前でアナソ・ジョボドワナ(南アフリカ)と顔を見合わせて笑顔を見せた。余裕の走りで19秒95の今季自己ベストを記録した。一方、藤光は20秒34と予選よりも記録を落とし、自己ベストにも及ばない。「出し切れなかったのがとても悔しい」と振り返った。高瀬はリアクションタイムが0秒201と遅く、最後まで伸びを欠いた。20秒64で3組最下位に沈んだ。

 韋駄天スプリンターたちの個人での挑戦は終わった。100メートル、200メートルの短距離種目で世界との差をまざまざと見せつけられたかたちとなった。だが、北京の夏はこれで終わりではない。29日には、5月の世界リレー選手権で銅メダルを獲得した400メートルリレーが控えている。雪辱の機会はまだ残されている。

<男子やり投げ決勝>
1位 ジュリアス・イエゴ(ケニア) 92メートル72
2位 イアブ・アブデラマン・エルサイード(エジプト) 88メートル99
3位 テロ・ピトカマキ(フィンランド) 87メートル64
9位 新井涼平(スズキ浜松AC) 83メートル07

(文/杉浦泰介)