12日、世界バドミントン連盟(BWF)公認のスーパーシリーズ(SS)「第34回ヨネックスオープンジャパン2015」が東京体育館で各種目準決勝が行われた。女子シングルスはBWF世界ランキング10位の山口茜(勝山高)が同7位のワン・シーシャン(中国)を、同9位の奥原希望(日本ユニシス)が同3位のタイ・ツーイン(チャイニーズ・タイペイ)を下し、決勝に進出。山口がSS初優勝を果たした2013年以来の日本人対決となった。その他の日本勢は男子ダブルスの早川賢一&遠藤大由組(日本ユニシス)は中国ペアに、女子ダブルスの松尾静香(NTT東日本)&内藤真実(ヨネックス)組はデンマークペアに敗れ、準決勝で敗退した。
(写真:2年ぶりVへ王手をかけた山口)
 ジュニア時代から凌ぎを削ってきた山口と奥原が、シニアの舞台、SSの決勝で相まみえることとなった。

 女子シングルス準決勝、まず先にコートへ立ったのは、18歳の山口だ。2年前の優勝者は、1回戦でBWF世界ランキング8位のスン・ジヒュンを破ると、準々決勝はロンドン五輪金メダリストのリ・シュエルイ(中国)を下し、勝ち上がってきた。

 決勝へ進むために立ちはだかる相手は25歳のワン・シーシャン。元BWF世界ランキング1位の強者だが、今年4月のシンガポールオープン(SS)では勝利しているなどの対戦成績は1勝1敗のタイだった。

 第1ゲーム、山口は強打軟打を使い分け、縦に相手を揺さぶる。2−1から4連続ポイントで突き放す。山口はスマッシュやクリアー(相手のコート後方に打ち出すショット)でワン・シーシャンが後ろに下がると、相手を嘲笑うかのようにドロップショットで前へ落とす。「自分なりに思い切りよくできた」と振り返る最初のゲームは主導権を握ったまま、21−12で先取した。

 しかしコートが変わり、シャトルが伸びる側に立つと、劣勢を強いられる。「ネット前に打ってきた球を後ろにコントロールが難しかった」。第1ゲームや面白いように相手を上下に揺さぶったが、攻め急ぐような場面も見られ、第2ゲームは14−21で落とした。
(写真:「長い試合を勝ち切れて自信になった」と熱戦を制し、手応えを掴んだ様子)

 迎えたファイナルゲームでも序盤は相手に押された。11−6とワン・シーシャンにビハインドを許してインターバルを迎えた。ベンチにいる全日本のパク・ジュボンヘッドコーチ、佐藤翔治コーチに「大きい展開するように」とアドバイスを受けた。山口は「我慢することだけ考えた」と無理して自ら仕掛けるのではなく、クリアーも使って相手のミスを待った。徐々に盛り返し、18−18と同点に追いつく。

 だが先にマッチポイントを奪ったのはワン・シーシャン。山口は18−20と追い込まれた。「終わるまで勝てる気がしなかった。会場のみなさんに応援してもらったので、自分も頑張らないといけないと思いました」。会場の大声援に背中を押され、土俵際で踏ん張った。互いに3度マッチポイントを奪った両者。25−24と山口の1点リードの場面で、最後はワン・シーシャンの返球がネットに阻まれると、山口はホッと肩をなでおろした。1時間20分を超える熱戦を制し、2年ぶりの決勝へとコマを進めた。

 一方、20歳の奥原は、2回戦で13年の世界選手権女王ラチャノック・インタノン(タイ)、準々決勝で14年世界選手権銅メダリストの三谷美菜津(NTT東日本)をファイナルゲームを制し、準決勝に進出。昨年のSSファイナル優勝を果たした同世代のライバルであるタイ・ツーインと対戦した。
(写真:山口が「自分より粘り強い」とコート狭しと動く奥原)

「1回も勝ったことのない選手だったので、挑戦する気持ち」と、対戦成績0勝2敗の相手にチャレンジャーの姿勢で臨んだ。昨年の香港オープン(SS)では19−21、11−21と完敗だったが、悪いイメージばかりではない。「香港の時よりは世界との距離が縮まっている。私もトップの中のひとりなんだという自信が確実にあったので。相手に対してプレッシャーだったり、“怖いな”と思う気持ちはなく入れたので、足が止まるようなことはなかった」

 臆することなくコートで躍動した奥原は第1ゲームから連続ポイントを重ね、終始主導権を握った。21−12と相手にほぼペースを掴ませずに、このゲームを取った。

 第2ゲームはシャトルが飛ぶコートに変わった。奥原は「意識しすぎて無理に攻めすぎてしまった」と得意であるクリアーはあまり出さなかった。コートを広く使えず、タイ・ツーインに思い切りのいいプレーをさせてしまった。9−10のシーソーゲームから8連続失点で一気に畳みかけられる。結局、このゲームは14−21で失った。

 奥原はファイナルでは気持ちを切り替え、ストローク勝負を展開した。攻めてはワイドにシャトルを打ち分けながら、守っては「相手のショットに慣れてきた部分もあったので、自分がチャンス球を上げてしまった時でも相手の決めてくるショットを1回、2回で返せた」と相手のミスを誘う粘りのプレーを見せた。

 9−10から6連続ポイントで点差をあけた奥原。18−17の場面では、タイ・ツーインのクロスに跳び付いて反応。執念のレシーブで相手コートに返すと、タイ・ツーインは返球できなかった。最後は20−19からタイ・ツーインのショットが右に逸れる。奥原はそれを冷静に見逃すと、アウトのコール。噛み締めるように両手でガッツポーズを作った。
(写真:SS初制覇へ、あと一歩と迫った)

 3年前で高校3年で出場したヨネックスオープンで初の決勝進出を果たした。「足を運んできてくれた皆様に3年ぶりに帰ってきた私のペストパフォーマンスを見せたいという気持ちでコートに立っていました」。ここ2年間はヒザのケガの影響で、ヨネックスオープンにはスーツでチームの応援に回っていた。その間に山口は一気にスターダムへと駆け上がっていた。3学年下のライバルの活躍に内心は忸怩たる思いがあっただろう。

 山口と奥原。ともに高校2年で全日本総合を初優勝した2人は、その後、世界ジュニアも制した日本女子が誇るバドミントン界のホープである。ここまでの対戦成績は奥原の4勝0敗。奥原は「紙一重の勝負になる。自分のパフォーマンスをいかに出せるかが大事です。自分らしく戦える方が勝つと思います」と語った。

 BWF世界ランキングは9位の奥原に対し、山口は10位。リオデジャネイロ五輪の代表を争う上でも負けられない一戦だ。山口のショットを奥原がどれだけ拾えるか、奥原の粘りに山口が最後まで耐えられるかが勝敗を分けるだろう。静の山口と動の奥原。“自分らしさ”を決勝コート上で発揮し、駆け付けた日本のファンに優勝を祝福されるのは、どちらか。

(文/杉浦泰介、写真/大木雄貴)