ホームランと三塁打とでは天国と地獄である。12日、甲子園での阪神戦。延長12回表、2対2の場面で田中広輔が放った一打はセンターのフェンスを越え、バウンドしてグラウンドに戻ってきたかのように見えた。

 ところが、審判のジャッジはインプレー。その間、田中は三塁まで進んだ。監督の緒方孝市がビデオ判定を要求したが覆らず、結局、2対2で引き分けた。

 2日後、熊沢勝彦コミッショナーは「断じてあってはならないこと。野球ファンの皆さま、球団関係者の皆さまに対して、深く、深く、おわび申し上げなければならない」と謝罪し、誤審であることを正式に認めた。

 いずれにしても、誤審は後味が悪い。審判の判定に100%の正しさを求めるのは酷だが、そのためのシステムづくりに消極的である必要はない。米大リーグが導入している「チャレンジ制度」も、そのひとつだろう。

 松田元オーナーは「頭にはくるが、しょうがない。どういう形で審判が改良していくかが重要」と述べた。しょうがない、などと言わず、“被害者”として、改革の先頭に立つくらいの気概を示して欲しい。

 一方で“科学の目”に頼ると「審判の権威が損なわれる」と心配する声もあるが、これは逆だろう。今回のように処分なしに終わっても、誤審を犯した審判はファンや関係者の厳しい視線にさらされる。すなわち誤審防止策を講じることは、審判の権威を守ることにつながるのだ。そうした視点からの提案を期待したい。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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