ボクシングのWBA世界フライ級タイトルマッチが25日、東京ビッグサイトで行われ、王者の亀田大毅(亀田)が元同級王者で挑戦者の坂田健史(協栄)を3−0の判定で下し、初防衛に成功した。試合は前半、坂田が押し気味に試合を進めたが、徐々に亀田が動きで上回り、終盤は次々とパンチをヒットさせてリードを広げた。坂田は得意の後半に持ち味を発揮できず、2年ぶりの世界王座復帰はならなかった。
 21歳の若い王者が勢いで勝るか、30歳のベテラン挑戦者が経験で勝るか。亀田は減量苦もあり、スタミナに不安が残る。前半で勝負をかけ、坂田がそれをしのげば手数の多さで後半は優位に立つ。そんな戦前の予想とは全く異なる展開になった。

 序盤から攻めたのは坂田だった。回転のよいパンチを相手のボディ、顔面に散らす。3Rには遅れ気味に飛んでくる右のフックから連打を浴びせた。ただ、拳を突き合わせている本人に手ごたえはなかったようだ。同じラウンドにバッティングで右目の上をカットしたことも影響したのだろう。
「このままでは勝てないと思った。後半は足を使って距離をとるように展開を変えよう」

 しかし、試合が進むにつれ、ペースをつかんだのは亀田のほうだ。6Rには右ストレートから左、右とパンチが顔面をとらえる。後半に強いはずの挑戦者は上体が落ち始め、9Rには右フックを浴びて左目の上もカットした。
「後半4つ(9〜12R)をとることを考えてた。坂田選手は後半に乗ってくるから、そこをきっちり抑える。それが課題やった」
 そうセコンドについた兄・興毅が明かしたように、亀田は後半に力を温存していた。動きの鈍った元王者とは対照的にフットワークが落ちることはなく、相手が出てきたところをしっかりカウンターで返し、有効打を増やした。

 作戦通り9R以降のラスト4Rはフルマークで亀田。「こちらとすれば、(9〜12Rは)全部とる戦いを想定していた」と坂田の所属する協栄ジムの金平桂一郎会長が語ったように、挑戦者は完全に計算が狂った。終わってみればジャッジの採点は118−110、117−112、116−112。予想以上に大差をつけられた。

 防衛戦に向け、兄・興毅は「坂田選手の今までのビデオテープを見て、家族みんなで作戦を考えた」と話す。試合前のビッグマウスとは裏腹に、リングでは堅実なボクシングをみせるのが亀田兄弟の特徴だ。今回も小刻みにパンチを繰り出してきた相手に、逆に距離を詰めて手を出しにくくした。そして危険を察知した時には足を使って離れるなど、研究の成果がうかがえた。
「坂田のよさを殺された。想像以上に坂田のテクニックを殺すボクシングに徹していた」
 挑戦者を指導してきた大竹重幸トレーナーは「研究負けしたのかな」と悔しそうにつぶやいた。

 両者と対戦経験のある元WBC世界フライ級王者の内藤大助は「ガードを固めてカウンターだけではなく、ちゃんと(坂田のパンチを)さばいた。普通なら途中でつかまるはず」と王者の成長を認める。とはいえ、世界戦はすべて判定決着。圧倒的な強さをみせているわけではない。亀田は試合後、「このフライ級は100%(の力)が出ない」とタイトルを返上し、階級を上げることを示唆した。

「世界チャンピオンになったから、もう夢はない。防衛回数とか関係ない。2階級、3階級制覇したいとかも思わん」と語る王者の目標は「自分のボクシングをしたい」。ならば、それが可能な階級にチャレンジしたほうがいいだろう。そして、その時こそ彼の真価が問われるはずだ。

(石田洋之)