地方競馬の雄・大井競馬場で2年連続リーディングジョッキーに輝く騎手がいる。戸崎圭太、30歳。卓越した技術と冷静な判断を武器に今年も勝ち鞍を順調に積み重ねている。数字以上に目を引くのが大レースでの勝負強さだ。東京ダービー、帝王賞、ジャパンダートダービーとビッグタイトルを次々と手中に収め、その勢いは増すばかり。今秋、更なる飛躍が期待されるトップジョッキーに当HP編集長・二宮清純が直撃インタビューを敢行した。
二宮: 今年はとても暑かったですが、夏バテなどはなかったですか?
戸崎: 特に体調が崩れることはありませんでしたが、暑さに慣れるまでは大変でしたね。

二宮: 夏はサラブレッドにとっても辛い季節ですよね。
戸崎: 馬は夏に弱いですからグタッとしていることが多いですね。レースの結果がその日の体調によって左右されることもあります。

二宮: やはり飼葉の量も落ちたりするもんですか?
戸崎: 落ちますね。人間と一緒で、夏バテすると厳しいですね。

二宮: 中央の馬は夏の間は北海道や新潟などへ遠征することが多い。一方、大井の馬はずっと厩舎にいますよね。やっぱり東京の暑さは馬にも堪えるでしょう。
戸崎: 馬に聞いてみなければわからない部分もありますが、やはり夏には弱いので、ここにいるときついでしょう。夏バテしてしまうと馬は発汗できなくなってしまうんです。そうなると余計に暑さがこたえるはずです。

二宮: そうすると、ちょっと調教の量を落とすとか対策を講じる?
戸崎: ひどい時は北海道とか涼しいところに休養に出したり休みをあげたりはします。人が微妙な変化に気付いてやらないといけないですね。

二宮: 騎手はどうですか。夏は体重が落ちたりするのでは?
戸崎: 他の時期に比べ、確かに体重は落ちやすいのですが、中には「夏の方が重くなる」という人もいるんです。普段よりも水分を余計に取ってしまうことが原因のようです。ただ、僕自身は全然体重の方は気にならないので、季節はあまり関係ありません。それでも夏は1レース騎乗しただけでも体重がかなり減りますから、次のレースのための体重調整は大変ですね。

二宮: 今年は東京ダービー、帝王賞、ジャパンダートダービーとビッグレースを総なめにしています。特に長くコンビを組んでいる船橋・川島正行厩舎のフリオーソとの帝王賞が印象的です。
戸崎: やっと強い馬たちに勝てたのですごく嬉しかったですね。サクセスブロッケンにヴァーミリアンにカネヒキリ。全部の馬に初めて勝ったって感じでしたから。

二宮: 戦前の評価は5番人気でした。レースでの位置取りは騎乗前から決めていたのですか?
戸崎: いえ、それは展開によって決まるものですからゲートが開いてから対応しました。最内からサクセスブロッケンが逃げて、その直後の2番手だったので、折り合いだけを重視して行こうと思いました。本当にいい感じで走ってくれましたね。

二宮: 中央の馬と対する時には地方の馬を勝たせたいという意識はありますか?
戸崎: それはもちろんあります。中央との交流重賞レースがあっても、大概は中央の馬に勝たれてしまいますから。やっぱりこの勝利はすごく大きいものでした。

二宮: 大井ファンも判官びいきみたいに、特別に声援が大きいんじゃないですか?
戸崎: そう思いますね。

二宮: これまでいくつも勝ってきたレースの中で、何かきっかけになったレースというのはありますか?
戸崎: 大井にはマイルグランプリというレースがあるんです。3年前にそこでナイキアディライトという馬に乗せていただきました。フリオーソと同じ川島厩舎の馬だったのですが、その頃は南関東のトップである川島厩舎の馬にほとんど乗せてもらってなかったんです。そこで、僕は緊張しすぎた状態でレースに臨んでしまって、冷静さを失ってしまいました。結果的に12着と大敗してしまったのですが、後から考えればこのレースが大きなきっかけになりましたね。

二宮: そこまで緊張した理由は?
戸崎: 重賞レースで2番人気になっていたんです。でも、僕には大きなレースで人気を背負うという経験があまりなかった。期待に応えなければと勝ちたい気持ちが先走ってしまい、全くレースになりませんでした。競馬には技術も必要ですが精神的な部分の占める部分も大きいなと、そこで学びましたね。

二宮: そのレースのことは全く覚えていない?
戸崎: いや、覚えてないわけではないのですが、「スタートも気をつけなきゃ」とか「出遅れたらどうしよう」とか考えているうちに、ゲートが開いた瞬間に頭の中が真っ白になってしまったんです。スタートから逃げなければ能力を発揮できない馬だったんですが、結局スタートが決まらず、逃げる馬を追いかける展開になってしまいました。そうなると馬は力を出し切れずに3コーナーでは下がっていってしまうという感じで……。あのレースはすごく悔しくて、上がってきてから少し泣いてしまいました。

二宮: そのレースの後、川島先生から何か言われたことは?
戸崎: 先生には「経験を積めば、慣れてくる」と言われました。

二宮: 怒られることはなかった?
戸崎: 怒られなかったですね。少しは言われましたけど、そこでもう「大きい先生だな」と感じましたね。

二宮: それが川島先生との出会いですか?
戸崎: はい。あれだけの人気馬に乗せてもらうのは初めてでしたし、川島厩舎といえば南関東を代表する厩舎です。そのネームバリューに自分が負けてしまったということです。

二宮: それ以降、多くのことを学びながら川島先生にはずっと使ってもらっているということですね。
戸崎: はい。有り難いことです。

二宮: これまでで川島先生から教わった一番、大事なことは?
戸崎: やはり自信を持って乗るということですね。最初の頃はとにかく場数を踏みなさいと声をかけていただいていましたが、今では自信を持って行けと言っていただいています。

二宮: 3年前のマイルグランプリの苦い経験が今に活きているんですね。
戸崎: はい、本当にいいきっかけなったレースでした。

<現在発売中の『ビッグコミックオリジナル』(小学館2010年11月5日号)に戸崎騎手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>