6年目を迎えた四国・九州アイランドリーグは、選手育成で毎年、着実に成果をあげている。今年は本ドラフトで、これまでで最も多い3選手が指名を受け、育成を含めても史上最多タイの6名がNPB行きの夢を叶えた。今季は福岡に在籍していた千葉ロッテの秋親、カープドミニカアカデミーよりリーグに派遣されていた広島のディオーニ・ソリアーノがそろって1軍で白星をあげるなど、元アイランドリーガーの活躍も増えてきた。過去5年間で20名のNPBプレーヤーをドラフトで輩出してきたリーグから、新たなる扉を開いた選手たちを紹介する。
(写真:パンチ力と安定した守備が評価された横浜7位指名の香川・大原)
<今年一番の成長株 〜横浜・大原〜>

「都市対抗に出たい」
 それが1年前までの夢だった。プロは遠い場所だと思っていた。佐賀学園高、九州共立大を経て新鋭の社会人チーム「ヒタチエクスプレス」へ。大原淳也はアマチュア選手としての夢に一歩ずつ近づいていた。ところが2008年秋、予想もしない事態が起きる。会社が自己破産を申請し、野球部も解散してしまったのだ。突然の出来事で受け入れ先も見つからず、大学時代の同級生を頼ってやってきたのが香川の地だった。

 高松市に拠点を置くアークバリアドリームクラブでプレーしていた時、アイランドリーグの試合を観る機会があった。
「観客も大勢いて、ここでプレーできたら楽しそうだな」
 抱いていた夢から遠ざかりそうになっていた自分には、夢を追いかけて白球を追う選手たちがまぶしく映った。

 昨オフ、アイランドリーグのトライアウトを受験したのは「達成感が欲しかった」からだ。「やるだけやってダメなら踏ん切りがつく」。その時、既に大原には大事な家族がいた。しかも愛する妻は子どもを身ごもっていた。一家の主として、収入の少ない独立リーグで長くプレーすることはできない。リーグ挑戦は最後の賭けだった。 

 だが、後のない状況が彼を飛躍的に成長させた。打撃では西田真二監督からトップからコンパクトにバットを出し、フォロースルーを大きく振り抜くスイングを徹底された。
「監督からは“大きく構えろ”と言われました。僕は打てなくなると結果を出そうと構えが小さくなっていました。顔でボールに迎えに行くような打ち方になってしまったんです。常に背筋を伸ばし、ボールを呼び込む形にすることで間もとれるようになりました」
 全試合に出場して打率.314。10本塁打はチームトップだった。得意のパンチ力に一層、磨きがかかった。

 また内野守備でも光るものをみせた。守備範囲も広く、捕球、スローイングとも粗いところがない。
「昔から守備は好きでしたが、アイランドリーグに来て成長しました。グラブの出し方ひとつとっても“へぇ〜”と感じることだらけでしたね」

 横浜では元香川の福田岳洋が夏場以降、中継ぎとして定着した。3年連続最下位のチームを浮上させるには、新戦力の台頭が不可欠だ。
「最初は守備固めからでも、自分の役割がしっかりこなせる選手になりたいです。監督がどうにかしたいと思う時に使ってもらえる選手になりたい」
 自分の役割を全うする。それこそが勝てない組織にとって最も求められる要素だ。ベイスターズに欠かせない柱になるべく、大原家の大黒柱はトレーニングを続けている。

<憧れの赤いユニホーム 〜広島・弦本〜>

 176センチと決して高くない上背から140キロ台の速球をバンバン投げ込む。今季はクローザーとして1勝3敗13セーブ、防御率2.32。昨季から堀江賢治前監督が「秘密兵器」と称してきた右腕は何が変わったのか。

 まず昨秋からフォームを修正した。テークバックの際に腕が遠回りするような投げ方を改めた。トップの位置に来るまでの動きからムダを削る代わり、しっかり前でボールを離すことを心がけたのだ。これにより、腕がしっかり振れるようになっただけでなく、球の出所が見づらくなった。
「体の動きも、これまではサイドスローのように回転させていてフォームと合っていなかった。その部分も改善しました」

 おかげでストレートのキレが格段に良くなった。加えて変化球の精度が上がり、より速球を引き立てた。
「いいときの球質はNPB1軍レベル」(加藤博人前投手コーチ)
「高めのストレートはスピンがかかり、NPBのバッターでも容易には打てない」(堀江前監督)
 リーグの指導者も、そのストレートを絶賛する。

 広島は縁がある球団だ。父がカープファンだったこともあり、小さい頃からよく広島市民球場には応援に行った。憧れはカープでエースを務めた黒田博樹(現ドジャース)だ。「ストレートで相手を封じ込められるところが魅力」と語る。

 13年連続Bクラスのチームが抱える最大の泣きどころはリリーフ陣だ。短いイニングで経験を積んだ弦本にも1年目からチャンスはあるだろう。
「まずは高め、低めの2分割でしっかり投げ分けるコントロールをつけること。低目にしっかり投げられれば、大ケガはしない。それだけのボールは持っていますよ」
 お世話になった加藤コーチは来季から東京ヤクルトの投手コーチに就任する。ライバルチーム相手に最高のピッチングをみせることが最高の恩返しだ。

(次回も引き続きアイランドリーグの指名選手を紹介します)

(石田洋之)