経営難で明るいニュースのなかった関西独立リーグに待ちに待った朗報が飛び込んだ。先のドラフト会議でリーグ初の指名選手が誕生したのだ。夢を叶えたのはオリックスから5位指名を受けた深江真登外野手(明石)と、巨人から育成3位指名を受けた福泉敬大投手(神戸)の2人だ。リーグでは6月分から選手給与がカットされ、日々の生活にも苦労するなか、彼らは白球を追いかけ、大きな目標をクリアした。2選手の横顔を紹介する。
<野手転向で才能開花 〜オリックス・深江〜>

 一度は挫折した野球人生だった。独立リーグの門を叩くまで、深江は投手としてプレーしていた。松商学園高時代はエースで甲子園も経験している。ところが進学した先の龍谷大で舞台は暗転する。利き腕の右ひじ靱帯を痛めてしまったのだ。ボールを投げられない日々が続き、結局、4年間公式戦のマウンドに立つ機会はなかった。

 それでも野球を諦めきれなかった。投手として無理なら野手になるしかない。自信はなかったが、関西独立リーグのトライアウトを受けた。これが深江の人生を大きく変えた。
「とにかく足がそこらの速さじゃない。ビックリするくらい速かった。肩も人並み以上。思わず、こちらから“野手に転向したほうがいいぞ”と声をかけたくらいです」
 所属していた明石の北川公一監督はそうトライアウトでの印象を語る。

 野手転向1年目ながらトップバッターとして一気に頭角を現した。25盗塁と俊足を披露しただけでなく、打っては打率.335。これはリーグ2位の好成績だ。
「足を生かすと、どうしても当て逃げのようになってしまう。それではNPBでは通用しない。しっかりバットを振り切ることを意識させました。でも彼の場合、特別教えなくてもどんどん自分から吸収していった」
 指揮官も驚くほどの急成長だった。

 176センチ、75キロと決して体は大きくない。体力、技術ともにプロの野手として鍛えなくてはならない面はたくさんある。「できれば、もう1年、独立リーグで基礎体力をつけさせたかった。ケガが多いので、それだけが心配」と北川監督も“親心”をみせる。それでもオリックスは育成ではなく、支配下選手として獲得した。将来性を高く買っている証拠だろう。

 特に今季のオリックスは、アレックス・カブレラ、T−岡田らを揃えた重量打線でクライマックスシリーズ争いに絡んだ半面、機動力が生かせなかった。足の使える選手は、それだけでチームにとって貴重な戦力になる。
「1年でこれだけ伸びたんですから、想像もつかない選手になるかもしれない」
 北川監督は「イチローのような選手になってほしい」と期待を込める。本人も目標としている選手はイチローだ。オリックスが生んだスーパースターと同じ道を深江は駆け抜ける。

<目指すスタイルは斉藤和巳 〜巨人・福泉〜> 

 週3回、コンビニバイトをしながらNPBへの扉を開いた。愛知学院大を中退し、リーグ創設初年度の昨季、明石に入団。主に先発で7勝8敗2Sの成績を残した。今季は神戸に移り、途中から給与がなくなる苦しい状況を野球とアルバイトの両立で乗り切った。
「本当に生活費を稼ぐのがやっとでした。自分の体のケアに使うお金なんでなかったです」

 ただ、神戸での2つの変化が彼のピッチングを進化させた。1つはフォームの微調整だ。神戸の池内豊監督は中日のピッチングフォームの動作解析を担当した経験を持つ。今やチームの大黒柱となっている吉見一起やチェン・ウェインもアドバイスをした投手のひとりだ。自らも阪神で中継ぎとして活躍した指揮官は、軸足の使い方を福泉に指導した。
「ちょっとガニ股気味にヒザを開いて踏ん張れるスタイルに変えました。それまではヒザが内側に折れて、そこで力が抜けていた。おかげで真っすぐのキレが増しました」

 もともと145キロ前後のストレートが武器だったが、今季はより空振りが奪えるようになった。「指にしっかりボールがかかれば、本当にいいボールがキャッチャーミットにおさまる」と池内監督も目を細める投球を披露した。

 もうひとつの変化はクローザーへの転向だ。速球とスライダーのコンビネーションを生かすため、短いイニングでの仕事に専念させた。
「僕は試合で投げたほうが調子が上がるタイプ。抑えのほうが向いていましたね」
 レギュラーシーズンでの成績は1勝0敗10S、防御率1.91。年間王者を決めるリーグチャンピオンシップでも2試合連続セーブをあげて優勝に貢献した。「腕の振りが柔らかく使え、バランスの良い投球ができる」。スカウトの目に留まり、育成選手ながら道が拓けた。

“3軍構想”を持つ巨人は福泉も含め、今ドラフトで8人の育成選手を指名した。「日本一に一番近い」と印象を明かすチーム内での競争を勝ち抜くことが最初の大きなハードルだ。憧れている投手は福岡ソフトバンクの斉藤和巳。豪快な投げっぷりで、マウンドに仁王立ちする姿をみせたいと思っている。 

(次回はアイランドリーグの指名選手を紹介します)

(石田洋之)