ブラジル・リオデジャネイロで開催された柔道の世界選手権。最終日の16日には出産によるブランクを経て出場した女子48キロ級の谷亮子(トヨタ自動車)が2大会ぶり7度目の優勝、さらには男女の無差別級で棟田康幸(警視庁)と塚田真希(綜合警備保障)が優勝し、ここまでゼロだった日本勢の金メダルは3個となった。
 大会を通しての日本のメダル数は金3、銀2、銅4の計9個。男子は史上最少の2個に終わり、女子は史上最多の7個を獲得。各階級の上位5位までに与えられる北京五輪出場枠は、8階級(男子2、女子6)で確保した。
 女子48キロ級第一人者の谷が、母になって初めて臨んだ世界選手権で、価値ある金メダルを獲得した。今年4月の選抜体重別では優勝を逃したが、過去の実績を買われ、代表入りを果たした。選考会で敗れながらの代表入りに否定的な声も多かった。
 04年アテネ五輪以来、約3年ぶりの国際舞台で、試合勘も心配された。しかし、谷の強さは群を抜いていた。冷静な試合運び、抜群の集中力、勝利への執念で、逆風と重圧をはねのけた。
「過去の6度の優勝よりも良い試合ができた感触がある。五輪の3連覇もはっきりと見えてきた」
 会見では力強くこう語った。北京五輪での「ママでも金」が、現実的な目標となってきた。

 女子は谷と無差別級の塚田が獲得した金メダルを含め、史上最多の7個のメダルを獲得。今大会が初代表となった57キロ級の佐藤愛子(了徳寺学園職)、52キロ級の西田優香(淑徳大)が銅メダルを獲得するなど、若手の健闘も目立った。国内でも抜きんでた存在ではないだけに、同じ階級の選手たちにとっても励みになったはずだ。北京五輪に向け、良いかたちでつながるだろう。

 序盤から「不振」が続いた男子は、あわや金メダルゼロかという日本男子の窮地を、棟田が救ったかたちとなった。
 男子100キロ超級の井上康生(綜合警備保障)、同100キロ級の鈴木桂治(平成管財)の両エースはともに微妙な判定に泣く結果となった。武道として伝わってきた日本の柔道が、本来の姿ではなくなってしまうと嘆く声がある一方で、世界に目を向け「JUDO」の国際的な流れに乗らないと戦えない、との声も多い。

 ロス五輪無差別級金メダリストの山下泰裕氏は9月18日付の朝日新聞で「日本の選手はいかに投げるのかだけを練習するのでなく、いかに相手をつかまえるかを研究しなければならない。もっと実戦に即した練習が必要。『審判に負けた』と言う関係者がいるが、日本の基準と世界の基準は違う。海外では最後にかけた技を重視する傾向がある。判定基準を考慮して戦うことも配慮すべきだった」と指摘した上で「勝負にすべてをかける雰囲気が伝わってこなかった。大変な危機だ」と謳っている。

 バルセロナ五輪男子71キロ級金メダリストの古賀稔彦氏も、出演したテレビ番組のなかで「ヨーロッパの選手は最後の最後まで何とかしてやろうという気持ちで向かってくる。練習の段階からハングリーさがある。日本勢にはそういったハングリーさが足りない。世界の流れが変わってきていることに対応していかないと、北京では戦えない」と指摘していた。

 今大会、棟田が金メダルを獲得したとはいえ、無差別級は五輪では行われない。五輪で実施される7階級に限れば銅メダル1個というのは深刻な状況といえる。柔道は日本発祥とはいえ、国際化が進み、武道ではなくスポーツへ変化している。今後、「柔道」ではなく「JUDO」に、いかに対応していくべきかがより求められるだろう。北京五輪に向け、時間はまだ約1年残されている。