次々とピッチに崩れ落ちるライバルを横にして、アル・ガルファスタジアムのピッチには歓喜の輪が広がった。PK戦でただ一人外してしまった長友佑都も喜びを爆発させ、興奮に震える拳を強く握りしめていた。
「(PKは)完全に力んでしまいましたね。緊張感なく蹴ることができたけど、(ゴール左上を)狙いすぎたね。でもまあ、ああいう雰囲気のなかで蹴ったというのは凄く財産になりましたね」
 PK戦での勝利とはいえ、韓国を下したのは実に5年半ぶりという価値ある勝利だった。大きく貢献したのが左サイドを駆け抜けた長友である。チームトップの14kmの運動量を記録。チーム全体が後半に入って足が止まるなかで、120分間通してその運動量が落ちることはなかった。

 長友は試合前日、「左サイドが試合のカギを握る」と言い切っていた。練習後にアルベルト・ザッケローニ監督と香川真司とピッチ上で話し合いを持ち、相手の右サイドバック、チャ・ドゥリの裏が狙いとなることを確認していた。本田圭佑とも以前からそういう話をしていたという。
「チャ・ドゥリが食いついてくるので、僕がボールを持ったときに真司がワイドに開いたり、中に入ったりすれば、うまく食いついてきてスペースができるというのがある。狙っていこうという話をしました。しっかり左サイドを制圧したい」

 そして、その言葉どおりに、日本の1点目は生まれた。PKで先制された後の前半36分、ボールを持った本田圭がタメをつくってチャ・ドゥリを引き出し、そのタイミングで長友がスピードを上げて裏に飛び出す。パスを受けた長友がマイナスにパスを出して前田遼一のゴールをアシストした。
「タイミング良くというのは狙っていました。そういう駆け引きができたと思うし、全体的なバランスも見ることができるようになっている。今はサッカーをやっていて凄く楽しい」
 後半、運動量の落ちた香川に代わって、チャ・ドゥリのケアも怠らなかった。チャ・ドゥリがなかなか上がることができなかったのも、長友の働きが効いていたからだ。攻撃の要となる香川の守備の負担を減らそうと、この日も香川をできるだけ攻撃に集中させるようにプレーしていた。

 同世代の本田を含めて、自分たちがチームを引っ張っていくという自覚が今の長友には見える。「W杯に出た選手たちが、経験したことをみんなに伝えていくことは凄く大切だと思う」。チームでまとまりを持つように振る舞い、コミュニケーションを大事にしてきた。また、体幹トレーニングに精通しているとあって、宿舎では香川にトレーニング法についてアドバイスすることもあると言う。ピッチでは監督のイタリア語の指示を、チームに伝えるという役割もこなしており、長友の存在感は日に日に大きくなっている。

 優勝まであと一つ。5試合でわずか1失点しかしていない難敵オーストラリアを撃破するためには、オーストラリアの中央が強い以上、やはりサイドの揺さぶりが必要となってくる。香川がケガでチームを離れてしまった今、香川の無念さを抱いたうえでプレーすることにもなる。おそらく左には岡崎慎司が入ることになるが、岡崎とは慣れているだけに何の問題もない。運動量の多い日本の左サイドが、勝敗のカギを握ると言っていい。
 長友の目には、もう優勝しか見えていない。
「ここまで来たらあとはメンタル(の調整)。みんな疲れているけど、そこはメンタルで何とかしたい。今の日本のサッカーで優勝することができれば自信になると思う。そして自分にとっても大きな財産になると思う」

(このレポートは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。