NPBもアイランドリーグもシーズンの開幕まで約2カ月。今季、リーグからは過去最多タイの6名が新たにNPBの門をくぐり、計19選手が1軍で活躍するべくキャンプを終えた。彼らの動向もリーグの行方ともに、ファンは気になるところだ。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちは、新たなシーズンにどのように臨もうとしているのか? その今を追いかけた。
 一段ずつ1軍への階段を――荒張裕司

 1月、北海道日本ハムの2軍の寮や本拠地がある鎌ヶ谷は熱狂の渦に巻き込まれた。ゴールデンルーキー斎藤佑樹の入寮、そして自主トレで、のどかな球場の雰囲気が一変したのだ。殺到するファンに対応すべく、球場や寮の入口には警備員が配置された。
「この前、車で入ろうとしたら、顔を覚えられていないので入口で止められちゃいました(笑)」
 NPB2年目を迎える荒張は、そう言って笑った。

 この4月で22歳。童顔だから選手と思われないのも無理はない。ルーキーイヤ―は1軍に昇格することなく、2軍で経験を積んだ。
「あっという間の1年でした」
 そう振り返る2010シーズンは、NPBでプレーする手応えをつかむと同時に、その厳しさも味わった。

 たとえば4月4日の東京ヤクルト戦。荒張は指名打者で初めてスタメンに名を連ねた。2打席凡退し、犠打を挟んだ4打席目、山田弘喜の投じたボールを叩くと、強い打球がセンター左へ。そのまま外野フェンスを越えるホームランとなった。2軍とはいえ、プロ初安打が初本塁打。
「それまでは差し込まれてライト方向への打球が多かったんです。それがセンターに鋭い当たりが打てた。今までにない感触でした」

 実は前日、2軍公式戦での初打席(対東京ヤクルト)では大失敗をしていた。鎌田祐哉の前に手も足も出ず、3球三振。緊張はしていないつもりだったが、自然と体が硬くなっていた。ベンチに帰ると五十嵐信一2軍監督からきつく叱られた。何とか挽回しようと放った一打だった。

 リード面でもうまくいった日とうまくいかない日があった。初めてスタメンマスクを被った4月14日の湘南戦。荒張は先発・矢貫俊之のカーブを有効に使った。
「矢貫さんはストレートもいいんですが、カーブも大きな独特の曲がり方をする。打者としては緩い球を狙うのは難しいし、勇気がいると考えたんです」
 緩急をつけたリードに応え、矢貫は7回1失点の好投。チームは2−1と接戦をモノにした。
「たぶんベンチはダメだったらすぐ僕を代えるつもりだったと思います。それが1試合フルで出られた。これはちょっとだけ自信になりました。要求どおりに投げてくれた矢貫さんには感謝しています」

 一方で8月22日の湘南戦では4−15の大敗。スタメンだった荒張は途中から一塁の守備に回された。
「こういう悔しい試合はよく覚えています。普通、ゲームが壊れる時はピッチャーが四球を連発するものですが、この試合はほとんど打たれて点を取られている。これはキャッチャーの責任です。ピッチャーの調子が良ければ、抑えるのは当たり前。むしろピッチャーの調子が良くない時に、いかにこっちがアイデアを出して手助けできるか。そういうキャッチャーを目指したいですね」

 長いリーグ戦で何度も同じ打者と対戦するプロ野球は、1度通用した攻略法でシーズンを押し通せるほど甘くはない。状況や打者の心理、ピッチャーの調子を考えながら、常に最善手を模索する作業が求められる。
「そのためには引き出しをたくさん持っていることが必要だし、その中からどれが一番適切かを選びとれる能力も必要。まだまだ経験が足りないことを痛感しました」

 だが、名捕手の東北楽天・野村克也元監督の言葉にもあるように「失敗と書いて成長と読む」。荒張自身も昨季の収穫を「たくさん失敗できたこと」と語る。問題はその失敗をいかに成長につなげるかだ。2軍では木田優夫らプロの世界で長く生き残ってきた選手とバッテリーを組み、貴重なアドバイスももらえた。いつか1軍の舞台で、そういった大先輩をリードしたいと思っている。

 日本ハムの捕手陣は現在、鶴岡慎也と大野奨太が併用されている状態だ。この2人を一気に抜くことは難しいが、まずはキャッチャーの3番手として1軍ベンチ入りすることが目標になる。
「まずは肩の強さ、捕ってからのスローイングの速さでアピールしたいですね。そこなら何とかなるという自信があります」
 入団してからは単に速いだけでなく、正確なスローイングを身につけるべく練習に取り組んできた。

「まだまだやることはいっぱいあります。まずは2軍の出場機会をもっと増やしたい。一段一段、階段を昇った先に1軍昇格があればいいですね」
 フィーバーを巻き起こしている斎藤は1つ年上。1軍でクリーンアップの一角を占めそうな中田翔は同い年だ。荒張だって決して若すぎるということはない。いつかは彼らとともにファイターズの扇の要になる。そんな野望を密かに抱いている。

(石田洋之)