大相撲名古屋場所は14日、5日目を迎え、大関・魁皇(友綱)が東前頭2枚目の旭天鵬(大島)を寄り切りで破り、入門からの通算勝利数を1046として、元横綱・千代の富士の記録を抜き、史上1位となった。ここまでの通算成績は1046勝695敗158休。既に幕内勝ち星877勝、同出場1439回、同在位107場所は史上最多を更新しており、38歳のベテラン大関にまた新たな勲章が加わった。
 魁皇らしい勝ちっぷりだった。立ち合いで得意の右上手をつかむと、それをジリジリと引き寄せた。慎重に充分の体勢へと持ち込み、向正面へ。四つ相撲の巧い旭天鵬もどうすることもできない。最後は太い両腕でドンと相手の胸を突き、記念の1勝をもぎとった。

 さすがに往年のキレはないが、まわしをつかめば怪力を発揮する。かつてはリンゴを片手でつぶすパフォーマンスを見せたほどの握力。右上手を取られると、相手はほぼ勝ち目がなかった。しかも先に下手を取ったからと言って安心はできない。腕をがっちりと極めて小手に振るのも魁皇の持ち味だ。ケガをする力士も多数いた。

「彼は結構、おとなしそうに見えて負けん気がものすごく強い。私がバーンと突っ張ってくるとイラッときたのか、パッと腕をつかまえて小手投げを打ってきたことが何度かありました。あの怪力ですから腕が極まって、ものすごく痛い。全盛期は対戦するのが怖かったですね」
 突き押し相撲で長く幕内で活躍した片男波親方(元関脇・玉春日)はそんな思い出を語っていた。

 近年はケガもあり、勝ち越しがやっとの場所が少なくない。大関在位は65場所と歴代1位タイでも、カド番は13度。大関の役割を果たしていないとの批判はつきまとう。今場所も5日目でやっと2勝目。腰痛で下半身に力が入らず、初日からあっけなく3連敗を喫した。

 それでも11月に39歳を迎える大関を超える日本人力士が現われてこないのが相撲界の現実だ。技量審査場所とはいえ、先場所は7連覇中の横綱・白鵬を破った。閑古鳥がなく本場所の会場でも、彼は横綱に匹敵する声援を集める。無敵の白鵬に人気、実力両面で対抗できる日本人力士は、未だに魁皇が一番手と言っていい。

 酒豪でも知られ、土俵の内外で昔ながらの豪快さを感じさせる数少ない力士でもある。一世を風靡した若貴とは同期入門。あれから23年、大相撲を取り巻く状況は大きく変わってしまった。ただ、魁皇だけが変わらず、土俵に上がり続けている。