40年前の10月15日、カープは球団創設26年目にして、初優勝を果たした。過日、古葉竹識監督が胴上げされる写真を見ていて驚いた。舞台は後楽園球場。背番号72の下には、観客がいるのだ。

ああ、そうだったと思い出した。この頃は優勝と同時にファンがフェンスを越えてグラウンドになだれ込んでいた。ましてやカープは初優勝なのだ。ファンが興奮するのも無理はなかった。

優勝を決めた巨人戦といえば、9回裏に飛び出したゲイル・ホプキンスの3ランホームランばかりが注目される。実際、このホームランで4対0となり、勝負はほぼ決した。ネクストバッターズサークルにいた山本浩二はバンザイでホプキンスを出迎えた。

忘れてならないのはホプキンスの前の前のバッター大下剛史のセーフティバントである。これが決まって1死1、2塁となり2番・三村敏之が空振り三振に倒れた後、ホプキンスの登場となるのだ。曲者(くせもの)で鳴る大下らしい巧技だった。

先日、古葉とヒザを交えて話す機会があった。実はこのバント、古葉の“指示”だったというのだ。

当時の古葉はサードのコーチャーズボックスに立っていた。一塁方向を見ると王貞治が併殺を狙って、いつもより後ろに下がっている。「その前に転がせ、と目配せしたんです」。大下はニヤリと笑い、瞬時のうちにアイコンタクトが成立したというのである。

「僕は試合中、一瞬たりともボールから目を離したことがない」。それが古葉の口ぐせである。秋季キャンプでも春季キャンプでもいい。カープ史上最強の指揮官を招き、選手たちに経験談を伝えてもらったらどうか。「まだ新球場になってから2回しか足を運んだことがないんです」。寂しそうに功労者は語っていた。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
◎バックナンバーはこちらから