カープファンのみなさま、残念でした。あと一歩でクライマックスシリーズだったのに……。

 

 大瀬良大地が泣いていましたね。もちろん、10月7日の最終戦、8回表にマウンドに上がり、2失点して降板したあとの、あのベンチでのシーンです。当然、責任を感じてのことだろうし、彼自身が言っているように、「年間通してチームのみんなに迷惑をかけるシーズンになった」ことが、悔やまれてならなかったのだろう。

 

 でも、私は彼の責任ではないと思う。中日に0-3で完封負けをした7日の最終戦(と、あえて思い出したくもないことを、露骨に書いておく)は、まさに、今シーズンのカープを象徴する試合だった。

 

 前田健太が7回で降板したことは責めない。中4日で、細心の注意を払って絶対失点しないように投げていた。実際0点に抑えたわけだし、そのために125球かけたのだから、仕方がない(シーズン中には、完投してほしかった試合が1、2試合ありますけど)。

 

 で、8回から大瀬良、中崎翔太という、勝ちパターンの継投に出て、大瀬良がつかまった。これが今年のカープの戦い方だから仕方ないんだ、といわれれば、その通りだ。

 

 でもね、7回を終わって0-0。当然、延長戦の可能性もある。8回から、今季のパターンにこだわる必要があっただろうか。まあ、何を言っても結果論にすぎないので、緒方孝市監督は、同じ新監督でも、東京ヤクルトの真中満監督とは、タイプが違うんだな、とだけ言っておこう。

 

 それから、当初は、クローザーの資質があるのだろうかと疑いたくもなった中崎が、少なくとも現時点では、立派に一本立ちしたことも申し添えたい。急遽、大瀬良をリリーフして、2死から投手の若松駿太にライト前タイムリーを許し、決定的な3点目を失ったあとのこと。彼は、悔しがるような素振りを一切見せなかった。あえて表情を変えず、すぐに次の打者を抑えることに気持ちを持って行けたように見えた。どんなに絶対的なクローザーでも打たれることはある。あの表情こそは(内心はどうあれ)彼の成長の証だろう。

 

 最初に、大瀬良の責任ではない、と書いた。大瀬良、中崎のパターンにこだわりすぎた監督、投手コーチの問題、という意味でもあるし、もうひとつ、この肝腎な試合で、またもや1点も取れなかった打線の問題という意味でもある。今季、17度目の完封負けである。これでは上位にいけるはずがない。

 

 カープの今シーズンとは結局、何だったのだろうか。

 まずは、黒田博樹が復帰したシーズンである。これはもう、日本のプロ野球史の中でも特筆大書されるべき出来事であった。

 

 春先の黒田のインタビューの中に「もう40歳ですから」というフレーズがよく出てきたのをご記憶だろう。実はこれには少々違和感をもっていた。40歳といったって、去年のヤンキースでの投球を見れば、やれるに決まっているじゃないか、と。

 

 でも、黒田の予測のほうが正しかった。8年ぶりの日本のマウンドということもあったろうし、気候など、環境への対応もあったろう。何度か肉体的にきつそうだな、という登板もあった。

 

 しかし、そこはさすがというべきだ。10月4日の阪神戦などは見事なものだった。CSへ望みをつなぎ、大瀬良、中崎の負担を減らそうとする8回1/3の零封。今季が黒田の年であったことを証明する快投だったと言ってよい。

 

 で、それ以外に何があったでしょうか。

 前田健太も最多勝を獲ったのだから、実力通りの働きをしてチームに貢献した。

 

 福井優也も、よく復活した。

 中崎も9月に入って、ついにクローザーとして安定したのは、すでに触れたとおり。1点リードの9回にマウンドに立つことに慣れてきたとさえ思える終盤の働きだった。

 

 要するに今年はそういう年だったのである。

 

 で、野手は?

 明らかに、問題はそこである。

 

 菊池涼介の守備がよかった。丸佳浩の守備もよかったし、よく四球を選んだ。あとは……。強いて言えば、前半戦は田中広輔がよく打ったかな。他に打った人はいましたか。あ、前半戦は、新井貴浩が打ちましたね。

 

 しかし、誰の目にも明らかなのは、貧打という課題がまるで改善されなかったことである。チームとして、この問題をどのように解決していくのか。カープに今、いちばん大切なのは、それを、チーム内にも、ファンに向けても、明確に打ち出すことである。(いい新外国人を探す、という悪い冗談はやめてくださいね)

 

 あえて、笑われるかもしれないようなことを書く。9月の後半、たまに起用された堂林翔太は、意外にヒットを打った。

 実は、たいしていい当たりではない。どん詰まりの内野安打とか、たまたま飛んだコースがよかったとか、運も味方していたように思う。

 

 ただ、この運を引き寄せたのは、彼の必死さゆえである。打てなくても使ってもらえた去年までとは違い、結果が出なければ、再び二軍行き。そういう切羽詰まった状況で、彼はわずかながら、自力で結果を引き寄せ始めていた(もっとも右投手になると使ってもらえませんでしたが)。

 

 くりかえすが、CS進出のかかった10月7日の最終戦、カープは1安打完封負けを喫した。いまのスーパー貧打線に欠けているものが、9月後半の堂林の姿には、少しだけ見えていたと、私は思うのだが……。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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