メジャーリーグではミート力、パワー、スピード、守備、スローイングの5つを兼ね備えた選手を5ツールプレーヤーと評する。日本において、この資格を有している内野手として真っ先に名前が浮かぶのが埼玉西武の中島裕之だろう。打ってよし、守ってよし、走ってよし。なかでも、そのバッティング技術は同じプロ選手でさえ舌を巻くほど高いものがある。今回、その天才的な打撃の一端に触れるべく、二宮清純が本人を直撃した。
(写真:長嶋茂雄氏からの打撃指導も「めっちゃ、わかりやすかった」と笑う)
二宮: 中島選手といえば上段に構える豪快なフォームが印象的です。これはいつ頃、完成したんですか?
中島: 高校生ぐらいです。遊びでいろいろ打っているうちに、あの構えになりました。最初はヒジがギューッと後ろに入ったフォームだったんですけど、バットが出てこないので、ヒジが入りにくくしようと思ったら、高めで構えるかたちになりました。

二宮: 後ろ側の脇を開けて構えますね。指導者の中には脇を締めろという人もいます。
中島: こっちのほうが自然だし、パワーが出ますね。構える時は脇が開いていますけど、打ちにいくときにはヒジが体について勝手に締まりますから。

二宮: 右手の押し込みで飛距離を調節できると聞きました。もう少し具体的に教えてください。
中島: 僕の場合、インパクトの瞬間は右手の親指から人差し指の部分をあけています。ちょうど詰まっても衝撃がこないように、プロヒッター(親指につける柔らかい防具)をつけていますから、自然と隙間ができるんです。そして、当たった瞬間にグンッと押してやる。インパクトの瞬間、衝撃でバットが押し戻されそうになるのを、これで押し返します。

二宮: 押すというのは手のひらを使うのですか?
中島: いや、もうこの時点では腕とヒジと体はくっついているので、ドンッと全身で押す感じです。そうすると手首もグンッと入って右手が伸びる。そして伸びきったら手首が返って、フォロースルーとともに自然と右手が離れていく感じです。

二宮: なるほど。つまり、最初から右手は強く握らないほうがいいと?
中島: はい。バットが動くくらいゆとりを持って軽く握ります。ただ、右の小指はギュッと締める。親指と人差し指のところはグラグラ動くくらい隙間をつくります。

二宮: なんだか今の話を聞いたら、草野球で打てそうな気がしてきました(笑)。
中島: 最初から力いっぱい握ると、バットの遊びがなくなって、来た球にパチンと合わせるようなバッティングしかできなくなる。だけど、バットがしなるようにしておけば、インパクトの後で、押し込んだり、衝撃をうまく逃がすこともできる。ちょっと感覚的な話なので難しいかもしれないですけどね。

<現在発売中の『ビッグコミックオリジナル』(小学館2011年9月5日号)に中島選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>