ピッチャーの「投げ込み」に関しては賛否両論ある。「投げ込まなくてはフォームは固められない」という肯定的な意見がある一方で、「肩やヒジは消耗品。故障のリスクを考えるべき」という意見もある。

 

 だが、「走り込み」に関しては、否定的な意見を耳にしたことはほとんどない。名選手の意見が幅を利かせるプロ野球の世界にあって、400勝投手・金田正一の言葉は重い。

 

「『走って野球がうまくなるか』と言ったバカがいるけどうまくなります。当たり前じゃん。100%で走ったら、その分、節制もしなきゃいかん。食事や睡眠はもちろん、マッサージなどすべてのことをしなきゃいかん。技術はもちろん大事だけど、やはり管理、ケアがきちっとできなきゃ、いい成績は残せない。おかげでロッテの監督時代にピッチャーで故障者はあまりいなかったでしょう。金田正一が野球界に残したものには数々の記録もあるかもしれないけど、こういったコンディショニングの大切さを伝えたという自負はあるね」

 

 別の視点から走り込みの重要性を指摘しているのが、今シーズン限りでユニホームを脱いだ元中日の山本昌だ。50歳を過ぎてマウンドに立ったピッチャーは、NPBにおいては、彼しかいない。その意味では彼もまた、レジェンドだ。

 

「走れなくなると肩を壊すというのが僕の持論です」。どういう意味か。「走ることは全身運動。走っている間は、常に肩を揺すっています。だから肩を痛めにくい。ところが走れなくなると、肩が回らなくなり肩を痛める。次にヒジが壊れる。つまり走る行為は、ピッチングの基本中の基本なんです」

 

 走り込みの重要性を説く指導者はたくさんいるが、目的の大部分は「下半身の強化」であり、たいていは、それが「フォームの安定につながる」というのが定番である。走り込みと肩の関係性について、具体的に説明したのは、私が知る限りにおいてプロ野球選手では山本がはじめてである。

 

 オフは走り込みの季節である。肩やヒジには“休養”も必要だが、ランニングは欠かさない方がいい。それがレジェンドの教えだ。

 

 さて、カープのピッチャーたちはどうか。昔に比べると走り込みの量が減ったという話を、よく耳にする。特に故障がちの選手や伸び悩んでいる若手には山本の話を参考にしてもらいたい。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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