28日、ボクシングのダブル世界タイトルマッチが宮城・ゼビオアリーナ仙台で行われた。WBC世界ライトフライ級は同級3位の木村悠(帝拳)が王者のペドロ・ゲバラ(メキシコ)を判定で下し、新王者に輝いた。木村の通算戦績は21戦18勝(3KO)2敗1分け。WBCスーパーフライ級は同級2位の江藤光喜(白井・具志堅)が王者のカルロス・クアドラス(メキシコ)に挑戦し、判定で敗れた。クアドラスは5度目の防衛に成功。江藤は通算戦績を22戦17勝(13KO)4敗1分けとした。

 

 杜の都で日本人チャレンジャーは涙した。世界初挑戦でベルトを手にした木村は、歓喜の涙。2年ぶりの世界挑戦となった江藤は戴冠に失敗し、悔し涙に暮れた。

 

 ライトフライ級は大逆転の王座奪取だ。木村はプロデビューから10年目でやっと掴んだ世界戦。しかし4ラウンドを終えての公開採点ではジャッジ2者が37‐39、1者が36-40と劣勢だった。3者ともに王者ゲバラを推す厳しい出だしとなった。

 

 青コーナーで採点を聞いていた木村は「開き直って、悔いなく正面からいこうと思った」と前へいく戦法へと変えた。5ラウンドからジャブ、ワンツーと距離をつめてパンチを当てていく。しかし、王者も容易く主導権を譲ってくれない。強烈なレフトが木村を襲う。左ボディからの右ストレートにヒヤリとする場面もあったが、徐々にリズムを掴んでいく。

 

 6ラウンド、木村はボディを軸に有効打が目立つようになる。ゼビオアリーナの観客も盛り上がり、「声援がすごく心強かった」と木村もノッていく。ディフェンス巧者の32歳は、相手のブローを防ぎつつ、的確にパンチを打ち込んでいった。8ラウンド終了後の公開採点は2者がゲバラを支持したが、1者がドローのジャッジ。その差を詰めていった。

 

 終盤は体力の落ちてきたゲバラ、攻勢をかける木村の構図となった。挑戦者の猛烈な追い上げ。会場からの木村コールを背にベルトを奪いにいく。最終ラウンドも手数をかける木村、ゲバラはクリンチが目立つ。最後は両者の打ち合いが展開された。どちらもダウンを喫することなくゴングが鳴った。

 

 残りは判定を残すのみ。ジャッジは2-1(111-117、115-113、115-113)で木村を推した。リングアナウンサーから「ニューチャンピオン!」と読み上げられると、木村は両手を挙げて喜んだ。2008年のプロ初黒星を喫した後、一般企業で勤め始めた。ボクサーと商社マンの二足のわらじ。フルタイムで働きながら、トレーニングを積んで日本チャンピオンになった。3度の防衛を経て、挑んだ世界戦でベルトを掴んだ。木村は「この階級で最強のチャンピオンになりたいです」とリング上で誓った。

 

 無敗王者の壁は高かった。メインイベントはスーパーフライ級のタイトルマッチは33勝のうち26KOのクアドラス、17勝中13KOの江藤の高いKO率を誇る両者の対決となった。

 

 序盤、中盤と江藤は打ち下ろす右ストレートを中心にチャンピオンを攻めるが、対するクアドラスは回転の速い連打を繰り出す。王者のスピードに翻弄され、攻守で圧倒された。4ラウンド終了時の公開採点は3者が36-40。8ラウンド終了時は1者が74-78、2者が73-79と劣勢だった。

 

 江藤が逆転するために、残された道はKOしかない。攻勢を掛けたが、直線的な距離を詰めても王者を捉えきれない。クアドラスは足を使って、左右に動き回る。時折、連打も返す抜け目のなさも見せた。江藤は最後まで逆転のKOを狙ったが、有効打も少なく王者に逃げ切られた。

 

 江藤3兄弟の長男は13年にはタイでWBAフライ級暫定王座を掴み取った。タイでの世界戦勝利は日本人初の快挙だったが、同王座をJBCが認めなかった。その後の防衛戦にも失敗した。再起戦で東洋太平洋王座に就き、2度の防衛を果たして緑のベルトを掴むチャンスを得たが、“2階級”制覇は叶わなかった。

 

(文/杉浦泰介)