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(写真:“3度目の正直”でついに初戴冠となった石本)

 21日、日本スーパーバンタム級王座決定戦が東京・後楽園ホールで行われ、同級2位の石本康隆(帝拳)が同級1位の久我勇作(ワタナベ)を判定で下した。序盤は久我の強打に苦しんだ石本だったが、徐々に自分のペースに持ち込んでいく。左ジャブを中心にポイントを稼ぎ、試合巧者ぶりを発揮。5ラウンド終了後の公開採点で2-1とリードすると、時間を使いながら的確にパンチを当てた。10ラウンド終え、ジャッジ3人が石本を支持した。石本は日本タイトルに3度目の挑戦で初の奪取に成功。通算戦績を35戦27勝(7KO)8敗とした。

 

「不細工な試合をして申し訳ない」。新チャンピオンは頭を垂れた。前王者・小國以載(角海老宝石)の王座返上によって舞い込んできた3度目の日本タイトル挑戦。34歳のベテランボクサーは腰に悲願のベルトを巻いた。

 

 序盤は久我の勢いと拳に押された。巻き込んでくる右を食らい、ヒヤリとする場面も見られた。「相手の右をもらって、ちょっと消極的になった。中途半端なジャブはやばいなと強気なジャブが打てなかった」と石本は振り返る。

 

 想定外の序盤戦も、石本は「段々相手が焦ってくるのがわかった」と徐々に落ち着きを取り戻していく。キーとなった左ジャブだった。「しっかり機をみれば、ジャブは当たる」。久我の顔をはね上げる石本の左ジャブは、ジャッジ映えもいい。5ラウンド終了時点ではジャッジは2-1で石本を支持した。

 

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(写真:勝者としてコールされた瞬間、天を見上げて喜んだ)

「勝因はキャリア以外何物でもない。前半をしのいで、後半は相手が落ちてくるのを待った。それはキャリアができたこと」。セコンドについた中野裕司トレーナーが試合を振り返ったように、後半は石本がペースを握った。左ジャブを中心に有効打を繰り出しつつ、クリンチを使う。相手にリズムを作らせなかった。3-0の判定で勝利を収めた。

 

 青色のトランクスに描かれている「CORAZON」の文字。スペイン語で「気持ち」や「魂」を表す。まさに気持ちでの初戴冠だった。「(久我は)パンチもあってスタミナもあった。すごく強くて、にらみ合った時もくるなと思っていました。ただクリンチ際は優しいし、勝ちに対する執念は僕が勝っていた」。打たせずに打つ美しいボクシングだったわけではない。攻め手を緩めず相手を圧倒したわけでもない。内容よりもまず譲れないものがあった。「僕はカッコ悪くても、どんな無様なかたちでも勝ちたいと思っていた。勝利にしがみついていましたね」

 

 石本はこれまで8つの負けを喫しており、決して順風満帆とは言えない。34歳と年齢は若くなく、一戦一戦が進退を賭けるような勝負となる。「またこれでボクシングを続けていける。生き残った」。キャリア14年目でついに掴んだタイトル。目標である世界へと少し近付いた。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

FORZA SHIKOKU 2014年1月掲載

>>第1回 「王者に噛みついたアンダードッグ」

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>>第3回 「心の弱さが生んだ“スロースターター”」

>>最終回 「I’m a tough boy」