fujimoto12「毎試合、点を取れるような選手になりたい」

 藤本佳希は明治大学体育会サッカー部に入り、守備意識は格段に高まったとはいえ、根っこの部分はやはりストライカーである。「ほかでは味わえないです。サッカー以外の何と比べても、それは特別」。彼のゴールへの想いが色褪せることはない。

 

 コンバートで広がったプレーの幅

 

 小さい頃からずっとFWでプレーしてきた藤本だが、大学3年時には神川明彦総監督によれば、「本意じゃなかったと思う」というサイドハーフを経験した。チームとすれば彼の推進力をサイドで生かす狙いもあった。スピードのあるFWをサイドにコンバートすることはサッカーの世界では往々にしてあることだ。だが、それは時としてストライカー失格の烙印を押されたことを意味する。

 

 藤本の場合は、どうだったのか。神川は「絶対最後はFW。和泉(竜司)との2トップは2年の時から組んでいるわけだから、基本的にはあの2人と思っていました」と明かした。

 

fujimoto29 ウイングとして覚醒したわけではないが、JR東日本カップ関東大学サッカーリーグ戦の前期はほぼサイドハーフでスタメン起用された。コンバートは結果として奏功した。栗田監督は藤本の進化をこう証言する。

「ボールの受け方、駆け引きの部分。そういうところの幅、引き出しが増えたんじゃないかと。当初は特長を活かしてサイドから入れさせるという狙いでした。深くは狙っていないのですが、結果的にそれが今につながっていると思います」

 

 本人もポジションの“左遷”には前向きだった。

「タッチラインを背にすることも多く、サイドハーフをやると見える景色が違う。僕はサイドハーフをやるのは嫌じゃなくて、どうやって点を取るかを考えていたら、むしろ楽しかったんです。たとえば右サイドにいる時は、左サイドからのクロスにFW並に突っ込んでやろうと思っていました。どのポジションをやっていても点の取り方はあると思うので、結局サイドをやっても、クロスを上げるというよりもシュートを打つタイプでしたね。見ている人からすれば、FWがサイドをやっているみたいな感じだったと思いますよ」

 ポジションを移そうが、藤本の照準はブレることはなかった。

 

 9月、リーグ戦後期の開幕戦となった第12節で、藤本はFWでのスタメン“復帰”をすると、まず2試合連続ゴールというかたちで応えてみせた。15節の慶應義塾大学戦では、高校の同級生・久保飛翔の前で2得点と大暴れする。ゴールを重ね続ける藤本、それに引っ張られるようにして明大の快進撃も止まらない。後期は9勝2分けと無敗。4連覇を果たした専修大と勝ち点で並ぶ2位でフィニッシュした。得点ランキング2位の藤本は11点を挙げ、ベストイレブンにも選出された。特筆すべきは27本中11本という驚異的なシュート決定率だ。5本シュートを打てば2本以上の確率でゴールネットを揺らす計算になる。

 

 辿り着いた自然体の境地

 

fujimoto4 藤本は練習で1プレー1プレーを思い返しながら、“今のはダメだ”“こっちに動いた方が良かったな”と試行錯誤を繰り返す。そうやって自分の感覚をすり合わせながら、試合では「無心」で挑む。

「結局、練習でやったことは、体が覚えている。考えてなくても試合に出るんです。やらないといけないことは、試合前からわかっているので、無心でプレーをする。その後で、色々細かいところを振り返りはします。もちろん試合の流れを見て、どうしなければいけないという状況判断もありますが、基本的には自然体でいます」

 

 ただ万全の状態で臨んでもゴールが入るとは限らない。相手のGKが神懸かる時もあれば、チャンスすら訪れないことだってある。時には割り切りも必要である。藤本もそういった資質も持ち合せている。

「ちょっとくらいミスしても別に気にしない。シュートを外しだすと絶対入らないんじゃないかと思ってしまう時があるんです。僕はそうなりたくない。シュートを打つことを怖がってしまうし、GKにも読まれやすくなる。外しても“次、決めればいい”ぐらいの気持ちではいます。90分終わって入らなかったら、少し落ち込みますけどね。試合が終わるまでは、落ち込まないです」

 

 この境地に辿り着いたのも最近だという。決して1つの1つのプレーに重みがなくなったわけではない。ミスに寛容になったわけでもない。「大学3年くらいから極端に言えば、“負けたらオレの責任だ”という感覚でいます。ミスをしたとしても“まだ終わってない”と思うんです。こうした気持ちの余裕が生れてから、ゴールも決められるようになってきたのかもしれないですね」。悠然と構える姿は、味方には頼もしく、敵には威圧的に映る。

 

 地元ではなく岡山を選んだ理由

 

fujimoto35 今年6月にはJ2のファジアーノ岡山から、藤本の加入内定が発表された。小さい頃から思い描いていたプロの夢。小学生の藤本をコーチしていた地元松山の北久米小の先生からは常々、「オマエはプロになれ」と言われ続けていた。

「その時は、愛媛の中でしか、サッカーをやっていない自分だったので全然、プロってイメージできませんでした。あまり現実味もなく、ただ子供の夢みたいな感じだったんです。でも言われていくうちに、“絶対にならないといけない”と思うようになりました。それはもう中学、高校と進んでいっても、今も頭の中にあります。それがあったからずっと思い続けられたっていうのはあったと思いますね」

 10年以上の時を経て、藤本は自らの力でその夢を実現させた。

 

 オファーのあった岡山に返事をしたのは5月下旬のことだった。明大で結果を出し始めた頃ではあったが、Jクラブが争奪戦を繰り広げるような引く手数多の存在ではない。

「僕は何個もバンバンオファーが来ていた選手ではない。『5月いっぱいに決めてくれ』という話だったので、正直すごく迷いました。夏まで待てば、もしかしたら色々なところから話があるかもしれないとも考えたんですよ」

 

 だが岡山の強化担当の話を聞いて、自分を必要としてくれている熱意を感じた。決めたのは直感だった。練習参加もしていないが、施設見学で練習グラウンドに向かい、岩政大樹や加地亮といった日本代表に名を連ねた経験のある所属選手とも話をした。

「その時の感覚で、“もうここに決めよう”と思いました。結局、行って、何をするですから。チーム選びはもちろん大事ですが、“ファジアーノのためにオレはやる”と決めましたね」

 

 実は他クラブからの誘いもあった。地元の愛媛FCだった。途中までとはいえ、ジュニアユースにも在籍していたこともある。知り合いも多く、迷う気持ちはなかったと言えば嘘になる。それでも岡山が自分を必要としてくれていたことが第一にあり、「全然知らない環境に飛び込んだ方が自分のためになる」との理由で愛媛に戻ることは選択しなかった。

 

 質実剛健のストライカー

 

 大学4年のリーグ戦で藤本は10得点を挙げ、2年連続で2ケタゴールをマークした。だが明大は昨年に引き続き2位だった。総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント(総理大臣杯)では関西学院大に敗れ、準優勝。決勝にスタメン出場した藤本は「その悔しさは今でも忘れていません」と唇を噛む。当然、このままシルバーコレクターで大学生活を終えるつもりはない。

 

fujimoto33 集大成としては、来月の全日本サッカー選手権大会(インカレ)が残っている。小中高大と未だ経験していない日本一への渇望もある。そのためには自らの活躍が不可欠であることも分かっている。

「リーグ戦では、自分が思っていたより得点を取れなかった。なのでインカレでは全試合でゴールするつもりでやりたいです。チームを勝たせるような得点であったり、苦しい時に決められる力にこだわっていきたいと思っています」

 スピードとパワーを兼ね備えた推進力を武器に、チームを前へと牽引する。目指す先は頂点のみである。

 

 藤本の“師匠”である村上裕一は、これまで彼の行く末を言い当ててきたという。その村上がはっきりと口にした。

 

「僕は日の丸をつけると思っている」

 

 気は早いかもしれないが、本人にも日本代表への想いを訊ねた。

「正直、全然イメージが湧かないですね。もちろん、まずはファジアーノでスタメンになりたいというのを一番に考えています。変に先を見ずに、自分が成長する。その時はその時でまた、目標を立てればいいと思っています」

 

 藤本はフィジカルを前面に押し出すパワフルなプレースタイルだが、キャラクターは実直で真面目な好青年である。質実剛健――。そこもまた彼を応援したくなる魅力のひとつなのかもしれない。

 

(おわり)

 

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fujimoto1藤本佳希(ふじもと・よしき)プロフィール>

 1994年2月3日、愛媛県西条市生まれ、松山市出身。小学2年からサッカーを始める。麻生FC-久米中学校-済美高。済美高3年時にはプリンスリーグ四国18試合で32得点を挙げ、得点王に輝いた。全国高校選手権にも出場し、3ゴールをマーク。同校のベスト16入りに貢献した。明治大進学後は2年時の後期から主力の座を掴む。3年時から関東大学リーグ戦で2年連続2ケタ得点を挙げている。来季からはJ2岡山への入団が内定。身長178センチ、体重76キロ。背番号11。

 

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(取材・写真/大木雄貴、文・写真/杉浦泰介)

 


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