DSC02049 第69回全日本総合バドミントン選手権大会最終日が6日、東京代々木第二体育館で行われた。男子シングルス決勝は桃田賢斗(NTT東日本)が佐々木翔(トナミ運輸)をストレートで下して初制覇。女子シングルスは奥原希望(日本ユニシス)が佐藤冴香(ヨネックス)を2-0で破り、4年ぶり2度目の優勝を果たした。女子ダブルスは高橋礼華&松友美佐紀組(日本ユニシス)が2年ぶり4度目の頂点に立った。松友は早川賢一(日本ユニシス)と組んだ混合ダブルスで3連覇を目指したが、同じ日本ユニシス所属の数野健太&栗原文音組に敗れ、2冠はならなかった。数野&栗原組と男子ダブルスを制した園田啓悟&嘉村健士組(トナミ運輸)は、いずれも初優勝だった。

 

 リベンジ果たし、目線は上に

 

 男女シングルスは、桃田と奥原の同学年で、いずれも国際バドミントン連盟(BWF)世界ランキング日本人最上位コンビ(桃田5位、奥原9位)が制した。

 

「やっと優勝できた」と振り返った桃田は、昨年敗れた佐々木にリベンジを果たした。1年前は「会場の雰囲気に飲まれて、自分のプレーができず悔しい思いをした」という桃田。今シーズンはBWFスーパーシリーズ(SS)で2勝を挙げ、世界選手権では銅メダルを獲得し、男子シングルスでは日本人初となる経験を積み重ねた。だが、この日も硬く序盤は思うようには動けなかった。

 

 3-3から5連続ポイントを失った。だが、ここで攻め急がなかったのが、成長の一端だ。クリアー(相手コートの後方に打ち出すショット)合戦となったところで、佐々木が堪え切れずにリバースカットを外に外す。佐々木のミスで「楽になった」という桃田は、強烈なスマッシュを広角に打ち込み、11-8と逆転してインターバルを迎えた。その後も着実に得点を重ね、第1ゲームは21-17で奪取した。

 

DSC02059 すると第2ゲームは桃田曰く「ゾーンに入った」という。“来るだろう”と予測したところにシャトルが飛び、相手のコートを広く、自陣は狭く感じた。ラケットのスイートスポットに当たる。「全部が思い通りになった」。1-2から5連続、6-3から7連続ポイントを奪い、一気に突き放す。得意のネットプレーで相手を揺さぶり、豪快なスマッシュをコートに何度も叩き込んだ。

 

 19-9の場面では、スマッシュと見せかけてクリアーを放ち、佐々木をコート上で躓かせた。「してやったり」のプレーで20-9とあっという間にチャンピオンシップポイントを掴むと、このゲームは最後まで付け入るスキを与えぬまま、逃げ切った。

 

DSC02093 これまで小中高社と、所属したすべてのカテゴリーの全国大会は制してきた。世界ジュニア、SSの男子シングルスでは日本人唯一の優勝経験者だが、全日本総合のタイトルだけは掴めていなかった。中学3年から出場し、7度目の挑戦で初めて手にした栄冠。「自分の中で日本のエースになったつもり」と胸を張った。

 

 前人未到の道を歩き続ける“スーパーマン”。リオデジャネイロ五輪に出場し、東京五輪で金メダルを獲得するという目標は上方修正した。「金メダルを獲りに行く気持ち。メダル獲得を100点とするのではなく、金メダルを狙っていきたい」。かつてはリー・チョンウェイ(マレーシア)、リン・ダン(中国)らトッププレーヤーに対し、「オーラがすごい」と語っていたが少しずつ彼らを“見る目”も変わってきた。目標ではなく、ライバル目線へと近付きつつある。

 

 女王に返り咲かせたプライド

 

DSC02036 女子の奥原は、4年ぶりに全日本の優勝カップを掲げた。「とりあえずホッとしました。うれしいというより、一安心」。彼女も桃田同様に「日本のエース」という肩書きにこだわった。

 

 ウォーミングアップを終え、コートに入る直前に奥原はこうつぶやいた。

「決勝の舞台、自分らしく楽しもう。この舞台に立てることに感謝して、自分らしく最後まで諦めずに走ろう。よし!」

 自らを奮い立たせて、足を踏み出した。

 

 4年前は対戦相手の棄権により、立てなかった決勝の舞台。多くの選手たちが独特の緊張感に飲まれてきたが、奥原は違った。

「1コートしかないので、すごく集中しやすいです。応援も拍手も聞こえて、楽しかった。いい緊張感で臨めたと思います」

 

 ノビノビとプレーする奥原。得意のストロークも冴えた。いきなり4連続ポイントでリードを奪い、主導権を握った。相手のシャトルも冷静に見極め、このゲームは一度もリードを許さなかった。21-12で先取し、流れを掴んだ。

 

 2分間のインターバル。奥原はコーチからの指示を受けながら、ドリンクを飲み、呼吸を整える。再びコートに足を踏み入れる前に「もう1回、1ゲーム目のスタート。よし!」と気を引き締めて飛び出した。

 

 対戦相手の佐藤は、ロンドン五輪代表。左ヒザの大ケガで一時は引退も考えたが、強打で押すプレースタイルを変えてでも第一線に戻って来た。準決勝では前年度優勝者の山口茜(勝山高)を破っており、勢いにも乗っている。171センチの長身から繰り出すフォアは威力十分である。2ゲーム目の奥原は、序盤に6連続得点を許し、佐藤に押される苦しい展開となった。

 

 奥原は「持ち味のショットを一発目から打たせたくなかった」とショートサービスを多用し、打開を図る。連続ポイントで逆転し、11-10とリードしてインターバルに入った。しかし、ここから佐藤が息を吹き返してきた。再びリードを佐藤に奪われる。

 

 12-15と奥原の3点ビハインドの場面では、佐藤のショットに何度も食らいついたが、佐藤に決められた。ファイナルゲームが頭を過り、体力を温存すべきか迷った。「とりあえず1球でも返そう」。第2ゲームを捨てるわけではないが、必要以上に無理はしない。このスタンスが結果的には功を奏した。

 

DSC01981「何度も心が折れそうになった」という奥原を支えたのは子供からの大きな声援だった。「のんちゃーん」「のぞみちゃーん」

 会場に響き渡るエールが奥原の背中を押した。徐々に得点差を詰めていった。先にゲームポイントを掴んだのは佐藤だったが、デュースに持ち込むと、連続ポイントでカタをつけた。最後の佐藤のショットを奥原は見送り、シャトルがコートオーバーだと確信した瞬間、噛み締めるようにガッツポーズを作った。

 

 初優勝した4年前とは立場が違う。「失うものがなかった。何もわからず、ただバドミントンをやっていた」。ナショナルAとしての誇りもある。連戦の疲れから右肩は思ったように上がらず、万全のコンディションとは言えなかった。それでも奥原を突き動かしたのは、「絶対的エースだと証明したかった」というプライドだった。

 

(文・写真/杉浦泰介)