いったい、どちらの言っていることが正しいのか。取材しながら悩むことがある。
たとえばピッチャーの「投げ込み」。あるOBは言う。「今のピッチャーは投げ込みが足りない。投げ込まないと、しっかりしたフォームはつくれない。オレの若い時はキャンプで毎日300球は投げ込んだものだよ」
これに真っ向から反対するOBがいる。
「体もできていないうちに投げ込みをやらせるから故障するんだ。ピッチャーにとって肩やヒジは消耗品。ただ投げ込めばいいってもんじゃないだ」
フォームをめぐっても、しばしばOB間で意見が対立する。
「今のままじゃ間違いなくヒジを痛める。長く野球をやりたいなら、早めに矯正してやらないと……」
それを冷ややかに聞いている者がいる。
「今からフォームを矯正する? そんなことしてバラバラになっちゃうよ。壁に突き当たるまでは、じっと見守っていてやればいいんだ」
どちらも選手のためを思っての意見であり、どちらが正解でどちらかが誤りだと決め付けるわけにはいかない。
そんな中、ことピッチャーの指導に関し、100人中100人とまでは言わないが、90人以上が一致する意見がある。端的に言うと「走り込み」と「遠投」である。長くこの世界を取材しているが、これを否定したOBの名前は思い出せない。
走り込みについては3号前にも山本昌の「走れなくなると肩を壊すというのが僕の持論です。走る行為は、ピッチングの基本中の基本なんです」とのコメントを紹介した。
遠投については213勝投手の北別府学が自著『カープ魂』でこう書いている。
<ボールを速く投げるだけなら力である程度できるが、遠投は身体全体のバランスを考えないといいボールが届かない。このバランスというのが肝だ>
カープの若い投手、伸び悩んでいる投手たちが、レジェンドたちの経験や知見から学ぶべきことは少なくない。
(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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