新年明けましておめでとうございます。四国アイランドリーグにとって2015年はこれまでにない素晴らしいシーズンとなりました。一番は改革が合格点と言える成果だったことです。昨季、我々は約3カ月間ずつ行っていた前後期の日程を、4~5月、8~9月の2カ月に圧縮しました。そして6月にはリーグ選抜チームを結成し、北米の独立リーグに挑戦したのです。

 

 初の北米遠征は有意義なものとなりました。参加したフロント、指導者、関係者は米国の裾野の広さを実感したことでしょう。選手の力量ひとつとっても、独立リーグレベルでパワー、スピードが違います。これは日本のNPB相手の交流戦では味わえない感覚です。慣れない環境の下、いかに自分たちの持ち味を出し、相手を上回れるか。世界の中での位置づけを知ることができたのではないでしょうか。

 

 経営面でも見習うべき点は多々ありました。北米の独立リーグでは球団運営がきちんとしたビジネスになっています。各球団は自前の球場を持ち、さまざまなイベントを行って多くのお客さんを集めていました。街づくりにおいても、球場は大切な文化拠点となっています。我々が最初に訪れたセントポールでは電車の終着駅を降りると、すぐに球場があり、アクセス面も優れていました。

 

 さらに各球場には放送設備があり、試合はすべてインターネット配信されていました。我々も今季は独立リーグ・グランドチャンピオンシップの映像をライブ配信しましたが、そのクオリティは全く異なります。内容は実況付きで、さまざまな角度から撮影され、NPBやMLBの中継を見るのと、ほとんど変わりません。野球を受け入れる素地が日本より、数段進んでいる。そのことを改めて痛感しました。

 

 このような段階に我々も一気に到達できるとは考えていません。しかし、ここをゴールに本気で独立リーグの経営を軌道に乗せよう。経営陣にとっては目標が明確になったはずです。その意味でも、意義深い遠征だったと思っています。

 

 加えて国際交流の観点からも、北米遠征は役割を果たしました。行く先々では、現地の日本人のみならず、住民の方から熱烈な歓迎を受けました。たとえばカナダのオタワでは地元の人たちが阿波踊りを練習して披露してくれたのです。単なる観光PRよりも、野球、スポーツを通じた交流の方が、より四国に興味を持っていただけるのではないか。このことを肌で感じました。今後、海外遠征を続けていく上で、各県の行政や地元企業とタッグを組めば、四国のアピールができる気がしています。この先の可能性を秘めたプロジェクトに成り得ると確信した1か月間でもありました。

 

 北米遠征には残念ながら参加できなかった選手にも、中断期間は前期で足りなかった部分を見つめ直し、練習に取り組む時間に充てられました。球団にとっても新戦力の補強や選手の入れ替えを行い、競争を煽ることができたとみています。

 

 結果、NPBドラフト会議では6選手が指名を受けました(1名は入団辞退)。その中には吉田嵩(徳島-中日育成2位)のように、2013年から始めたトライアウトリーグの合格者もいます。彼は高校からアイランドリーグに入り、わずか1年で指名を受けました。社会人チームなら高卒は最低でも3年は待たなくてはいけないところを1年で次に進める。NPB入りを志す若者に、独立リーグの長所を示してくれました。

 

 また香川から中日入りしたドリュー・ネイラー(中日)など、独立リーグからNPBに途中加入する外国人が多数いたことも昨季の特徴です。さらには藤川球児(阪神)の高知入団も話題となりました。外国人や既に実績のある選手がNPBを目指す場として、NPB球団にとっては適応能力や現状の力を判断する場として、独立リーグが存在感をみせた1年だったと言えるでしょう。

 

 制度面でも改善がみられました。ひとつはNPBのみ認められていた大学との練習試合や、オフ期間の母校でのトレーニングが解禁になったこと。もうひとつはリーグ出身者が学生野球を指導する際に必要となる資格回復の研修会に参加できるようになった点です。リーグが生まれて11年、ようやく独立リーグが、球界の一員として受け入れられてきたことをうれしく思っています。

 

 経営面でも今年度は3球団で黒字決算を達成できそうな見込みです。開幕前、シーズン圧縮には経費節減のメリットがあった半面、スポンサーや観客数の減少といったデメリットも想定されていました。しかし、各球団の努力もあってスポンサーは逆に増え、観客動員も大きく変わっていません。これまで雨天中止が多く、代替日程での実施が少なくなかった梅雨時の6、7月に公式戦がなかった点が順調な日程消化につながりました。その分、余計な出費も抑えられ、予想以上に改革の効果が出ています。

 

 今季も昨季を踏襲し、各2カ月間の前後期に北米遠征を挟むシーズンスケジュールとなります。北米遠征は試合数を20試合程度に増やす計画です。ここまで昨季の良かった点を並べてみましたが、点数をつけるとしたら80点。まだ20点は伸ばせる余地があるとみています。

 

 ひとつの課題は北米遠征中の活動です。この期間は、もっと地域に密着し、一体感をつくれるよう、各球団が知恵を絞ってほしいと感じています。またオフに愛媛、徳島が台湾に招かれて親善試合を行ったように、独自でアジアとのパイプをつくるのも一案です。さまざまな企画を考え、いかにプラスを生み出すかが問われています。

 

 海外に出てみると、アイランドリーグの評価は国内で考えている以上に高いことがわかります。何といっても、MLBに次ぐNPBというビッグリーグを持つ国の独立リーグなのです。日本で大金を稼ぎたいと夢見ている海外の選手たちは、このリーグで足掛かりを築きたいと望んでいます。この需要に応え、海外戦略を展開していくことが、これからの進むべき方向です。

 

 野球は2020年の東京五輪で競技復帰が見込まれており、各国が代表強化を図ることになるでしょう。アジアやヨーロッパの代表候補をアイランドリーグで預かって実戦の中で強化したり、代表チームと練習試合を行うことも可能でしょう。

 

 一昨年の12月にはシンガポールで10代の選手を集めたショーケースに参加し、選手獲得で新たな一歩を踏み出しました。今年はシンガポールのアカデミーから選手をピックアップし、練習参加してもらう計画です。もちろん、有望な選手は、そのまま入団という流れがあるかもしれません。

 

 時代は刻一刻と変化しています。SNSの普及で世界の野球の情報が日本にいながら、どんどん入ってくるようになりました。逆に、こちらの情報も全世界に発信することが容易です。たとえばアプリを制作し、ダウンロードすれば選手情報やプレー動画、成績などが随時、更新されるといったサービスも検討しています。いわば、電子版選手名鑑。これなら、新しい選手の獲得や入れ替えにも対応できます。球場に訪れた人のみならず、リーグに興味のあるすべての人に、より選手のことを知ってもらえる工夫をしていきたいものです。

 

 新しい試みにチャレンジする上で、安定した経営は欠かせません。多くのヒト、モノ、カネを巻き込み、ビジネスとして成り立つよう、輪を広げていくつもりです。今季はまず全球団の単年黒字化が、大きな目標になります。

 

 今季は高知に駒田徳広監督が就任します。名球会入りを果たした元選手がチームを率いるのはリーグ初のこと。それだけ独立リーグが日本球界で当たり前のものとなってきた証拠でしょう。

 

 野球に携わりたいと考えている人材にとって、独立リーグがひとつの立派な道筋となる。そのために11年目で得た手応えを生かし、情熱とスピード感を持って走り続けていきます。昨年がホップであれば、今年はステップ。そんな1年になるよう全員で頑張ります。全国の野球ファンの皆さん、ぜひ一度、四国に来てください。2016年も応援よろしくお願いします。

 

鍵山誠(かぎやま・まこと)プロフィール>:株式会社IBLJ代表取締役社長

 1967年6月8日、大分県出身。徳島・池田高、九州産業大卒。インターネットカフェ「ファンキータイム」などを手がける株式会社S.R.D(徳島県三好市)代表取締役を経て、現在は生コン製造会社で経営多角化を進める株式会社セイア(徳島県三好市)代表取締役社長、株式会社AIRIS(東京都千代田区)代表取締役。10年10月にはコミックに特化した海外向けデジタルコンテンツ配信事業を行なうPANDA電子出版社を設立。アイランドリーグ関係では05年5月、徳島インディゴソックスGMに就任。同年9月からIBLJ専務取締役を経て、07年3月よりリーグを創設した石毛宏典氏の社長退任に伴って現職に。07年12月よりアイランドリーグCEOに就任。14年9月に設立された一般社団法人日本独立リーグ野球機構の会長も務める。


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