4日、バレーボールW杯が開幕する。今大会は世界各国から12チームの強豪が集い、3枚のロンドン五輪の切符をかけた熱戦が繰り広げられる。眞鍋政義監督率いる全日本女子は32年ぶりとなるメダル(銅)を獲得した昨年の世界選手権に続き、今大会は1981年以来、30年ぶりの表彰台を狙う。
 昨年11月、“火の鳥NIPPON”は日本のお茶の間を歓喜の渦に巻き込んだ。予選ラウンドで2位通過を果たし、28年ぶりのベスト4進出を果たした全日本。準決勝で世界女王のブラジルにフルセットの末に敗れたものの、3位決定戦で米国に逆転勝ちし、銅メダルを獲得。全日本女子が世界選手権で表彰台に上がったのは、1978年の銀メダル以来、実に32年ぶりの快挙だった。当然のように、次に期待するのは84年のロサンゼルス大会以来となるオリンピックでのメダル獲得だ。しかし大会直後、眞鍋政義監督は「逆に厳しくなった」と険しい表情を見せた。

「もちろん、チームへの自信にはなったと思いますが、間違いなく日本に対する世界からのマークは厳しくなる。世界選手権でメダルをとったことで、オリンピックへの道はより一層険しくなると思いますよ」
 その指揮官の予想は少なからずも当たったと言っていいだろう。今年8月に行なわれたワールドグランプリでは、昨年の世界選手権でフルセットまでもつれこむ接戦を演じたブラジル、米国には全てストレート負けを喫し、5位に沈んだ。また、9月のアジア選手権では昨年の世界選手権で完勝した韓国にフルセットまでもちこまれると、準決勝では予選でストレート勝ちした格下のタイにもフルセットでの接戦を強いられたのだ。

 さらに、全日本女子に大きな試練が与えられた。昨年の世界選手権でメダル獲得に大きく貢献したMB山本愛とMB井上香織のセンター陣が故障で戦線離脱したのだ。特に山本の離脱は今の全日本女子にとってはあまりにも痛い。攻守の要であることはもちろん、ベテランと若手の潤滑油的役割を果たしており、精神的支柱でもあっただけに、彼女を欠いての戦いは正直、苦しいと言わざるを得ない。
 
 彼女らの穴を埋めるべく、センター線を任されたのがキャプテンのMB荒木絵理香とMB山口舞だ。特に山口には注目したい。これまで全日本では主にサイドとして起用されてきた山口だが、クラブチームでのポジションはセンター。つまり、全日本では“即席”という印象を受けるが、本来のポジションであるだけに、センターとしての彼女がどんな働きをしてくれるのか、楽しみだ。とはいえ、これまでのサイドでありながら、センター的動きを兼ねていたその奇抜的な動きは海外の指揮官から“忍者のようだ”と言われ、恐れられてきた。それだけにサイド陣の攻撃がやや単調になることは免れない。

 そこで奮起を期待したいのが、WS木村沙織だ。今や押しも押されもしない全日本女子のエースとなった木村。だが、今年8月のワールドグランプリ、9月のアジア選手権では精彩を欠くプレーが目立った。相手の高いブロックを交わすことを重視しすぎるあまり、器用にコースを打ち分ける木村の良さが影を潜めてしまったのだ。今大会では、さらに速さを増したS竹下佳江とのコンビネーションがカギを握る。

 眞鍋監督が最も重要視している初戦、日本はイタリア(世界ランキング7位)と対戦する。同国とは今年3戦全勝と相性がいい。とはいえ、前回優勝の実績をもつだけに、決して楽観視することはできない。WSフランチェスカ・ピッチニーニやMBシモーナ・ジョーリなど経験豊富なベテラン勢に、アルゼンチンから帰化したWSカロリーナデルピラール・コスタグランデが加わった攻撃陣は脅威だ。特にコスタグランデは大陸予選でチーム最多得点をマークし、絶好調。決して侮れない相手だが、日本は自らが選択したカードだけに、絶対に負けられない。開幕戦を白星で飾り、一気に波に乗りたい。

 今大会の優勝候補には世界ランキング1位のブラジルと同2位の米国が挙げられる。エースのWSシェイラを筆頭にタレント揃いのブラジルは、個々の身体能力が高く、どのポジションからも、どんな体勢でも強烈なスパイクを打つことができる。一方の米国は今大会出場国の中で最も高い最高到達点(331センチ)を誇るMBフォルケ・アキンラデウォを中心に、高さとスピードを兼ね備えたチーム。8月のワールドグランプリでは女王ブラジルを破るなど、チームは波に乗っている。そのほか、身長190センチ、体重90キロの体格から繰り出されるスパイクは破壊力満点のWS王一梅を擁し、今年9月のアジア選手権で優勝した中国、強豪揃いの欧州選手権を制したセルビアも有力候補だ。

 果たして、これら世界の強敵を相手に“火の鳥NIPPON”はどんな戦いを見せてくれるのか。全日本女子の最重要テーマと言われているサーブレシーブ、最先端の情報を駆使した緻密な戦略の実行力、そして最後まで諦めることのない勝利への執念――。世界の強豪と渡り合うには、これら全てが必須となる。一戦たりとも気を抜くことのできない過酷な戦い。4日、その火ぶたが切って落とされる。