公衆トイレにはその国の民度が表れる、というが、ならば、GKを見ればその国の土台がわかる、とわたしは思う。GKとは、育成のポジションだからである。

 

 わたしが子供のころ、スペインのGKは笑い物でしかなかった。フランス、ポルトガルのGKも相当お粗末で、イングランドやドイツ、イタリアの守護神に比べると下手くそなアマチュアにしか見えない代表選手も時にいた。

 

 だが、バルセロナの成功に触発されるクラブが増えてくると、GKの産地には大きな変化が生じてきた。かつてお笑いでしかなかったスペインは、いつしかGKの輸出国となり、かつて「GKファクトリー」とも呼ばれたイングランドからは、パタッと自前のGKが出てこなくなった。

 

 サッカー選手でありながら、GKの練習と本質はフィールドプレーヤーのそれとはまるで違う。必要なのは徹底した反復練習であり、感覚やひらめきといった曖昧な要素が入り込む余地はあまりない。よって、若いころからきちんとした教育、練習を積んでおけば、大きなアドバンテージとなる。

 

 つまり、GKを見ればその国の育成がうまくいっているかがわかるのである。

 

 いいGKを輩出するようになったスペインは、ついに世界王者となった。ベルギーやスイスといった小国も、一流GKが出てくるようになって侮れない存在となった。ドイツについては、あえて触れるまでもあるまい。育成システムの構築に出遅れたイタリアやイングランドとの差は明らかである。

 

 Jリーグの発足が決まったあたりから、日本のサッカーも本格的に育成に力を入れるようになった。するとどうなったか。創成期からしばらくの期間、Jリーグには高卒や大卒で即レギュラーとなるGKが続出したのである。彼らが、感覚や経験値でプレーしていたそれまでの世代とは違い、正しい練習を積んできていたからだった。

 

 ただ、ほとんどのJクラブにとって、GKがもっとも大切なポジションでなかったことも事実だった。ジーコやリネカー、リトバルスキーを獲得するクラブはあっても、シルトンやクレモンスを獲ろうとするクラブは皆無だったからである。

 

 なので、GKを愛するものとしては喜ぶべきことなのかもしれない。先週末開幕したJリーグで、実に多くの外国人GKがプレーしたことを。

 

 だが、日本のサッカーを愛する者としては、心配もしなくてはならない。創成期のJにも、韓国人の選手はいた。だが、韓国人のGKはいなかった。あの当時、日本の育成の方が韓国よりも優れていたからだとわたしは思っている。

 

 先週末、J1とJ2あわせて5人の韓国人GKがプレーした。高卒のGKが即レギュラーになるケースも、ほとんどご無沙汰な気がする。

 

 男子はリオへの切符を手にしたが、果たして、日本の育成は大丈夫なのだろうか。

 

<この原稿は16年3月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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