160307yamamoto 2016年は五輪・パラリンピックイヤーだ。山本化学工業では、動かしながら骨盤を正常な位置に戻す「ゼロポジション」の考え方を取り入れたアイテムを開発している。体に過度な負担をかけることなく、「ストレスゼロ」で正しい姿勢を動きの中で覚えこませるため、年齢や性別、競技レベルを問わず、ゼロポジションの発想は広く応用できる。選手のパフォーマンスを最大限に引き出す商品づくりを追求する山本富造社長に、この先の戦略を二宮清純が訊いた。その模様を前回に続き、紹介する。

 

 

 日常の中で自然と矯正

 

二宮: ゼロポジションの発想は、前回取り上げた競泳のみならず、さまざまな競技で効果が出ているそうですね。

山本: ゴルフ、野球、スピードスケートのショートトラック……。骨盤の位置を正常化したことで成績がアップしたケースが実際に出てきています。骨盤のズレは寝転がって力を抜き、足のつま先の開き具合を見れば、すぐにわかります。その歪みを整体や整骨院に通わなくても日常生活の中で元通りにしていくのです。

 

二宮: 日本人はO脚が多いと言われています。その分、骨盤も開いてしまう傾向にあります。

山本: 昔は着物文化でしたから足先が開かないように、つま先を内側に入れて歩いていました。すると足の外側に力がかかるため、筋肉のバランスが悪くなり、余計に外へ骨盤が開いていくんです。最近は生活習慣の変化とともに、極端なO脚は少なくなってきましたが、それでも骨盤が開いている人は少なくありません。

 

二宮: 日頃から意識しておかないと、矯正できませんね。

山本: 矯正といっても、無理やり固定しようとすると、体は拒否反応を起こします。強制感のあるものは体が元に戻ろうとするのでうまくいかない。我々のゼロポジションベルトは、開いている方の骨盤を2~3センチ引っ張って止めるだけ。「こんなんで効果あるんか?」とおっしゃる方もいますが(笑)、1週間~10日装着し、つま先をまっすぐ出して歩くことを意識すれば、骨盤の開き具合がかなり違ってきます。

 

二宮: 自然と骨盤が正常化されていく、というのがポイントだと?

山本: ご年配の方で「ヒザが痛くて歩くのがつらい」という方の歩き方を見ると、骨盤が開いて足先が外側を向いている。ゼロポジションベルトをして足の親指をまっすぐにするだけで、痛みが軽減する場合もあるんです。高齢者が健康的な生活を長く続ける上でも、ゼロポジションの考え方は応用できます。

 

二宮: 近年はスマホやタブレットで健康管理ができる時代になってきました。人々の健康志向は高まっていますから、そういったところと提携して歩き方や骨盤の開きがチェックできると良いでしょうね。

山本: それはおもしろいアイデアですね。現在、ウェアラブル端末とバイオラバーを組み合わせて、低体温を解消しようとするプロジェクトがスタートしています。どうすれば実現可能なのかリサーチしてみます。

 

 関節を温める新発想

 

二宮: 選手の履くシューズにチップをつけ、走行距離や速度といったデータを解析するチームも増えてきています。この技術を活用すれば、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

山本: スポーツ業界では年々、パフォーマンス向上や故障予防のために新しい考え方が取り入れられています。昨年末、北米に行った際には、ウォーミングアップの際にヒザ、腰、ヒジといった関節を温めることが重視されていました。関節が冷えたまま運動をすると負荷に耐え切れず、故障につながりやすいという話がスポーツ医学から広がっている。そのため、我々のチタン合金をコーティングしたウェットスーツや、バイオラバーのサポーターに対して大きな反響がありました。どちらも開発当初は、ほとんど見向きもされなかったのに(笑)。加熱ではなく、赤外線の作用で体の中から温める点が関心を呼んだみたいです。

 

二宮: 北米で、その発想が主流になれば、いずれ日本のスポーツ界にも浸透してくるでしょう。

山本: 驚いたのは、人間のみならず、競走馬に対しても関節を温めるようになっているんです。関節回りの血流を良くすることで脚の故障が減ると。ウォーミングアップで最も大事なのは、筋肉だけではなく、関節を温めることに認識が変わりつつある。

 

二宮: 先日、箱根駅伝で連覇を達成した青山学院大のフィジカルトレーナーを務めている中野ジェームズ修一さんに話を聞く機会がありました。準備運動というと、私たちは屈伸やアキレス腱を伸ばすことを真っ先にイメージしがちです。ところが、そもそも「アキレス腱は伸びない」と(笑)。無駄に負荷をかけるよりも、ゆっくり関節の可動域を広げることが大切だそうです。

山本: 高齢者向けのリハビリ施設に行っても、運動の前に軽くストレッチをして可動域を広げておいた方が効果が出るという考え方になりつつあります。その意味では、我々の素材を使ったサポーターでヒザ、腰、ヒジを温めることが日本でも広く受け入れられる余地がありそうですね。

 

二宮: サポーターに対する捉え方も変わるでしょうね。試合や練習で痛めている部位に装着するのではなく、故障を防ぐために前もって着けるものだと。

山本: そうなるでしょうね。関節を冷やさないという観点で、アスリートから高齢者まで幅広くバイオラバーの用途を提案することが今年のテーマになります。日本では体のケアや健康も含めて、医学に頼りがちです。しかし、欧米では通常、ホームドクターと呼ばれる存在が2人います。ひとりはお医者さん、もうひとりは解剖学に基づいたカイロプラティックの先生です。医学だけでなく、解剖学から体の状態を保つ試みも日本では重要になってくるのではないでしょうか。

 

山本化学工業株式会社