7シーズン目を終えた四国アイランドリーグPlusから、今年は7選手が10月の育成ドラフトで指名を受け、NPB行きの夢を叶えた。本ドラフトでの指名はなかったとはいえ、これは人数だけでみれば過去最多である。東京ヤクルトの貴重なスーパーサブとして1軍定着した三輪正義(元香川)や、千葉ロッテのクリーンアップも任された角中勝也(元高知)など今季は元アイランドリーガーのNPBでの活躍も増えてきた。彼らに続き、近い将来、1軍でのプレーが期待される指名選手たちを3回に分けて紹介する。
(写真:徳島の抑えとして年間優勝に貢献した広島育成1位・富永)
<藤川球児のストレートを目指せ 〜広島育成1位・富永〜>

 徳島が、いやリーグが誇るクローザーだ。今季、社会人のアークバリアから加入し、MAX147キロの速球とスライダーを武器に打者を牛耳った。30イニングで54個の三振を奪い、18セーブをマーク。徳島の初優勝に貢献し、リーグのセーブ王に輝いた。

 140キロ台のストレートにもかかわらず、打者から多くの三振がとれたのはなぜか。それはコンパクトな腕の振りで、球の出どころが見にくいフォームにある。
「高校時代に腕の振りが外回りになっていて肩を痛めたことがあるんです。だから肩に負担をかけないよう、キャンプからムダのないフォームを追求していたら、今のかたちになりました」

 高校、社会人と先発をずっとやってきた。抑えは初めての経験だった。
「いつ投げるか分からないし、準備していても投げないことがある。最初はとまどいました」
 横浜でリリーフエースとして活躍した島田直也コーチから調整法や心構えを教わりながら、1年間、クローザーの役割を全うした。もちろん毎試合、調子のいい時ばかりではない。連投が続くと思うようなボールが投げられない日もあった。
「でも、ピッチャーって先発にしろリリーフにしろ、そもそも絶好調で投げられるほうが少ないと思います。だから調子の悪い時にいかに修正するか。こちらのほうが大切だと思います」

 自ら投球フォームのチェックポイントをノートに10個ほどしたため、ブルペンでそれらを確認しながらマウンドにのぼった。体の開きは早くなっていないか、軸足へのタメはしっかりできているか……。自分の投球の良し悪しを自己分析できたことが安定感のある投球につながった。

 理想とするのは阪神・藤川球児だ。
「分かっていても打てないストレートを投げられるのは本当にすごいと思います。あのストレートに少しでも近づきたい」
 今季限りで退団した広島OBの斉藤浩行監督からは「1軍の3〜4万人の観衆の前でプレーしてこそホンモノのプロ野球選手」とエールを送られた。層が厚いとはいえない広島投手陣だけにチャンスはある。球団も「早い時期に支配下登録を」と期待を寄せる。

「育成なので一番下からのスタート。もう上に行くだけですから、ここから頑張るのも自分にとっては良いかなと考えています」
 名前のごとく“一”番を目指す日々が広島でスタートする。

<吉村裕基を追いかけて 〜広島育成2位・中村〜>

 育成ドラフトで自らの名前が読み上げられた時、こみ上げてきた感情は喜びでも驚きでもなく、「信じられない」という思いだった。
「ここだけ(中継していた)テレビの映像が差し変わったんじゃないかと思いました。指名挨拶を受けても、まだ指名を信じられない自分がいるんです(苦笑)」
(写真:右方向へ伸びる打球が持ち味の中村)

 中村の野球人生は昨年で一区切りつく予定だった。打率.343、9本塁打、46打点と2年連続で好成績を残しながら、NPBからの朗報はこなかった。地元の福岡に帰り、就職を考えていた。しかし、指名漏れに悔し涙を流した姿に西田真二監督、前田忠節コーチから「もう1年やってみろ」と説得された。まさに今季は“ラストシーズン”だった。

「でも今年は反省点ばかりでした。キャプテンを任された責任からかチャンスに力んでしまいました。打ったイメージはあまりないんです」
 しかもシーズンも終盤に入った9月に試合中に右手首を負傷。チームは後期優勝を果たし、リーグチャンピオンシップに出場したものの、中村は試合に出られなかった。“ラストシーズン”は最も不本意なかたちで幕を閉じようとしていた。
「だから指名されたことより、中途半端に野球人生が終わらなくて良かったというのが正直なところです。“また野球ができる”。その喜びが大きいですね」

 満足とは呼べない1年ながら、成績は打率.303、10本塁打、47打点。3年連続で打率3割以上と安定した成績を残したことは大きなアピールになった。何といっても中村の長所は引っ張りのみならず、右方向にも鋭い打球を放てるところにある。その打撃はドラフト会議前に野村謙二郎監督も映像をチェックし、高く買ったという。育成選手とはいえ、打線の迫力不足が課題の広島にとっては必要な“即戦力”だろう。

 反対方向への打撃を追求するようになったきっかけは高校時代にさかのぼる。東筑高2年の時に東福岡学園と対戦した際、1年年下の右打者が放ったライトへのホームランに驚いた。その打球の主は吉村裕基(現横浜)だった。
「ビックリしました。逆方向にあんな大きなあたりを打てる選手を間近に見たのは初めてでした」 
 それ以来、同じ打球を右へ飛ばそうと意識し続けてきた。バットも吉村と同じモデルを使用している。

 28歳での入団だけに、念願のNPBのユニホームを着たからといってものんびりしてはいられない。西田監督は「勝負は来季の支配下登録期限の7月いっぱいまでと考えたほうがいい」とエールを送る。それは本人も充分、自覚している。
「このままでは先は長くないと思います。来季は今年以上に集中しないと今度こそ野球人生は終わりますから」
 このオフもお世話になった人たちへの挨拶回りをしつつも、トレーニングは怠っていない。
「そういう意味では、今までとあまり変わらないオフを過ごしている。プロ入りの実感がわかないのもそのせいかもしれません」

 カープファンが待つマツダスタジアムのライトスタンドへアーチを描くその日まで――。まだ中村真崇は“ラストシーズン”を迎えるわけにはいかない。

(次回も引き続きアイランドリーグの指名選手を紹介します)

(石田洋之)