DSC04278

(写真:8連覇を喜ぶJX-ENEOSのメンバー)

 15日、女子バスケットボールの「第17回Wリーグ・プレーオフ・ファイナル」第4戦が東京・代々木第二体育館で行われた。レギュラーシーズン1位のJX-ENEOSサンフラワーズが同2位の富士通レッドウェーブを75-66で破り、8年連続19度目の優勝を決めた。JX-ENEOSの2勝1敗で迎えた第4戦。第1クォーター(Q)で1点差、第2Qで3点差と接戦が続いた。JX-ENEOSは第3Qで12点差に突き放すと、最後まで追いつかれることなく逃げ切った。

 

◇ファイナル第4戦(JX-ENEOS3勝1敗)

 司令塔・吉田、プレーオフMVP

富士通レッドウェーブ 66-75  JX-ENEOSサンフラワーズ

【第1Q】11-12【第2Q】16-18【第3Q】17-26【第4Q】22-19

 

 今年も代々木第二体育館にはひまわりの花が咲いた。JX-ENEOSがWリーグのエイトピート(8連覇)を達成した。

 

DSC04085

(写真:3Pを5本決めるなど21得点と活躍した吉田)

 富士通のガード(G)篠崎澪の得点で試合の幕が開いたPOファイナル第4戦。JX-ENEOSはポイントガード(PG)吉田亜沙美がスリーポイントで逆転すると、ミドルレンジからもシュートを決めてリードを広げる。その後は互いに得点が伸びず、12-11とJX-ENEOSのわずかなリードで第1Qを終えた。

 

 続く第2Q序盤は速攻から吉田のパスをインサイドのセンター(C)間宮佑圭が決めるなど点差を広げる。対する富士通も佐藤梓、町田瑠唯のガード陣がスピードを生かした突破でレイアップを決め、17-17と追いつく。

 

 どちらに転ぶかわからない勝負の流れを引き寄せたのは吉田だった。3分19秒、ガードフォワード(GF)大沼美琴のパスを受けると、スリーポイントを沈めた。この時点で早くも自身の得点を2ケタに乗せる。JX-ENEOSは小差のリードながらG宮崎早織、フォワード(F)の宮澤夕貴ら控え選手を起用し、吉田と間宮を休ませる。センターフォワード(CF)渡嘉敷来夢がインサイドでの強さを発揮し、得点を重ねた。前半はともにフィールドゴール成功率は30%前後。30-27のロースコアで終了した。

 

DSC03766

(写真:13得点11リバウンドと復活した間宮)

 後半開始早々、休養十分の吉田と間宮が躍動する。吉田のパスから間宮が3連続ポイント。間宮はこのファイナルでなかなか調子が上がっていなかった。ハーフタイムにトム・ホーバスコーチから「チームのことを一番にコートに立ってくれ」と言われ、吹っ切れた。渡嘉敷と並ぶJX-ENEOSの得点源が息を吹き返した。

 

「あそこからウチらしくなった」とJX-ENEOSの佐藤清美ヘッドコーチ(HC)が振り返るように、流れは一気に傾いた。吉田、間宮、渡嘉敷の活躍で得点差を2ケタに広げ、56-44で第4Qを迎えた。

 

 優勝までのカウントダウンは残り10分となった。富士通は1ケタ点差に詰め寄るも、インサイドのキープレーヤーCF長岡萌映子が競り合いの中で渡嘉敷を押してしまい5つ目のファウルで退場を喫する。JX-ENEOSリードのまま時計の針は進んでいった。後がない富士通はファウルゲームで逆転を狙うが、得意のアウトサイドのシュートは精度を欠いた。結局、75-66でJX-ENEOSが逃げ切った。

 

DSC03789

(写真:インサイドで絶対的な強さを見せた渡嘉敷)

 JX-ENEOSは全日本総合選手権と合わせて2冠を達成。今年も絶対女王であることを証明した。POのMVPには司令塔、キャプテンとしてチームを牽引した吉田が選ばれた。「(MVPを)とれたのはチームのみんなのおかげ」とチームメイトに感謝した。

 

 渡嘉敷、間宮、吉田という日本代表の主力を揃え、インサイドに圧倒的な強さを誇るJX-ENEOS。その他の選手も球際で激しいディフェンスを見せるなど、守備も堅い。それでも吉田は「まだまだ完成されたチームではない」と上を目指す。Wリーグ最強を証明したチームは、その歩みを止めるつもりはない。

 

 ゼロの視点

 

 すべてはゼロからはじまる――。JX-ENEOSの背番号「0」が最強攻撃陣を司った。日本代表の司令塔でもある吉田は試合をも支配していた。トリッキーなパスで観客を沸かせつつ、闘志あふれるプレーでチームメイトを鼓舞する。今回のPOファイナルでも、その姿は幾度となく見られた。

 

 ここぞという勝負所では得点を決め、相手の勝機をゼロに近付けていく。この日の第4戦でスリーポイントは面白いようにネットを揺らした。鋭い読みからスティール、リバウンドでボールを手に入れ、相手のチャンスを摘んだ。吉田がこだわりを持つディフェンスは、その視野の広さの賜物だ。

 

 佐藤HCも彼女の特筆すべき点をこう説明する。

「全体を見られるというところがすごいです。自分のマークマンや近くだけじゃない。全体を見て、どこが今一番危ないのか。そういったところをきちっと見れている」

 

DSC04162

(写真:試合終了後、涙が溢れてきた吉田)

 そんな吉田が時折、試合中にスタンドへ目線を向けた時があった。頬を緩ませる。視線の先には彼女の原点がいた。吉田の魅せるプレーの源流は実業団選手だった父親だ。「困った時はいつもアイコンタクトを取るようにしています。それがあるから自分は落ち着けるし、信頼している」。孤高の存在に見えがちだが、周囲の支えも彼女の力になっている。

 

 試合終盤に吉田は足を引きずりながらも懸命にプレーした。ガソリンがゼロになるまで走り続けた彼女には鬼気迫るものがあった。一度、佐藤HCは宮崎をコート脇に準備させた。だが吉田は「大丈夫です」とプレー続行を志願する。佐藤HCも交代をキャンセルした。「一応キャプテンをやらせてもらったので、最後はスタートの5人と優勝の瞬間を味わいたかった」と吉田。終了間際にはG岡本彩也花の3Pシュートをアシストした。

 

 死力を尽くした吉田。優勝の瞬間、安堵の思いからこみ上げるものがあった。ユニホームで顔を覆った。「今シーズンはどうしてもリーグ戦優勝したいという気持ちが強くあったので、本当にうれしく思いました。毎年そうなんですが、終わったことへの安心感というかホッとした感情が一番にあります」。Wリーグ最高の司令塔は万感の思いでシーズンを締めくくった。

 

(文・写真/杉浦泰介)