レスリングの全日本選手権は23日、東京・代々木競技場第2体育館で最終日を迎え、女子55キロで吉田沙保里(ALSOK)が10連覇を達成し、来年のロンドン五輪の代表に決定した。また同63キロ級では伊調馨(ALSOK)が3年連続9度目の優勝を飾り、同じくロンドン行きの切符を手にした。両者ともに9月の世界選手権を制して五輪の出場枠を確保しており、この大会の優勝が代表入りの条件となっていた。これで今大会では男子フリースタイル66キロの米満達弘、女子48キロ級の小原日登美(いずれも自衛隊)と4人の五輪代表が決まった。
(写真:お互いに五輪3連覇を目指す吉田(右)と伊調)
 V10と五輪出場を同時に決めても吉田に笑顔はなかった。
「これでは(五輪の)金メダルはムリ。もう1度やり直したい」
 決勝では新鋭の18歳、村田夏南子(JOCレスリングアカデミー)に苦しめられた。第1ピリオドの立ち上がりから吉田のお株を奪うようなタックルを決められ、ポイントを失う。
「いつもと自分の感覚が違った。腰が浮いていた」
 すぐさまタックルを返して、2ポイントを奪って逆転するも、ピリオドの終了間際には再びタックルからバックをとられ、2−2の同点に。ビッグポイントをとった吉田がこのピリオドを制したが、いつものような強さはなかった。

 続く第2ピリオドも距離を詰めて戦ってきた村田の勢いを止められない。
「得意のタックル、フェイントができなくて下がるだけになってしまった」
 それでも体勢を入れ替えてバックをとり、ポイントを獲得。最後も場外に押し出されそうになりながら、何とか逃げ切った。五輪2連覇、世界選手権9連覇。無敵の女王に対する国内外の包囲網は確実に狭まっている。
「これまではいいところを見せようと思っていたが、そう簡単には勝たせてくれない」
 予想外の苦戦は五輪3連覇へ改めて気を引き締める機会になった。

 一方、伊調は危なげなく63キロ級を制した。準決勝では現役復帰した山本聖子(スポーツビズ)を寄せつけず、決勝では渡利璃穏(至学館大)相手に積極的に仕掛ける。タックルで倒すと、そのまま押さえ込み、一気にフォール勝ち。結局、初戦から1ポイントも失うことなく3連覇を決めた。北京五輪後は一時期、競技を離れたものの、復帰後は「自分のレスリングをつくっていきたい」と貪欲に練習に取り組む。男子を相手に体力と技を磨き、また一段とレベルアップしている。
「アテネ、北京とは五輪の意味合いは全く違うものになる。ロンドンでは自分の一番良かったと思えるレスリングをしたい」
 自然体で臨む3度目の五輪も死角はなさそうだ。
(写真:耐える渡利を強引にフォールへ持ち込んだ)

 男子フリースタイル60キロ級では世界選手権銅メダルの湯元健一(ALSOK)がまさかの初戦敗退。この大会では五輪内定が得られなかった。前日までに実施された階級では女子48キロ級で世界選手権優勝の小原が制し、念願の五輪切符を手にした。男子フリースタイル66キロ級では決勝で米満がアテネ、北京両大会の代表だった池松和彦(池松オリンピックレスリングアカデミー)にフォール勝ち。世界選手権では銀メダルを獲得した25歳が、五輪では24年ぶりとなる男子の金メダルへ、まずは代表入りを決めた。
(写真:大会最優秀選手に贈られる天皇杯を獲得した米満(左)と小原)
 
 また浜口京子(ジャパンビバレッジ)は女子72キロ級で史上最多となる15度目の優勝。9月の世界選手権では2回戦で敗退し、五輪出場枠を確保できなかった。「いろいろ考える日々だった」と明かすが、国内では敵なしの実力を改めて示した。3度目の五輪には3月にカザフスタンで行われるアジア地区予選を勝ち抜く必要がある。
「ロンドンのマットの上に立っていることを信じて頑張りたい」
 そう意気込みをみせた33歳に、父のアニマル浜口は「今日が15回の優勝で一番、動きが良かった。一切の困難を乗り越えたら夢はつかめる」と気合を注入していた。
(写真:お決まりの「気合だ!」10連発で会見を締めくくる)