ボクシングの世界タイトルマッチが31日、横浜と大阪で行われ、横浜文化体育館でのWBA世界スーパーフェザー級王座決定戦は王者の内山高志(ワタナベ)が暫定王者のホルヘ・ソリス(メキシコ)を11R19秒TKOで下し、4度目の防衛を果たした。世界タイトル奪取から5試合連続のKO勝利は自身の持つ記録を更新し、日本人史上最多。また大阪府立体育会館で開催されたWBC世界ミニマム級タイトルマッチは王者の井岡一翔(井岡)が同級10位の挑戦者ヨーグドン・トーチャルンチャイ(タイ)を1R1分38秒KOであっさりと退け、2度目の防衛を収めた。なお、横浜でWBA世界フェザー級タイトルマッチに挑んだ細野悟(大橋)は、王者のセレスティノ・カバジェロ(パナマ)に0−3の判定で敗れた。
(写真:11R、内山の左フックが炸裂!)
<内山、最強の証明>

 真の王者であることを自らの拳で証明した。しかも試合を決めたのは、得意の右ではなく左だった。

 11R、フェイントをかけながら左を一閃。フックがこめかみに当たると、ソリスは腰から崩れ落ちた。横たわったまま、ピクリとも動けない。レフェリーがすぐさま試合を止めた。
「当たった感触で、もう立てないと思った。いい手応えでした」
 試合を振り返る顔は、激戦を戦ったとは思えないほどきれいだった。

 暫定王者のソリスはマニー・パッキャオとも拳を交えた強敵。内山は前回の三浦隆司(横浜光)戦で右手甲を痛め、11カ月のブランクがあった。試合は接戦が予想された。
 だが、フタを開けてみれば内山の完勝だった。立ち上がりから左ジャブで主導権をつかんだ。2Rにはワンツーで右のストレートがヒット。ダウンは認められなかったが、相手がバランスを崩してひざをついた。4Rには遅れ気味の右フックがヒット。連打でソリスを追い詰めた。

 痛めた右は完治はしたものの、内山本人は「不安がある」と明かしていた。それだけに練習を再開してからは左の拳を磨いてきた。この試合でも右を繰り出すのは、勝負どころのみ。左のジャブから、ボディ、フックと多彩なパンチでボクシングを組み立てた。内山自身は「ジャブは当たっていたが、思ったより刺さらなかった。スウェーしてうまく外していた」と振り返るが、中盤にはソリスの右目上が腫れ、出血がみられた。

 フィニッシュブローの左フックも、このブランクの間に練習してきたパンチだ。スパーリングでもパートナーを倒しており、手応えをつかんでいた。
「(ソリスは)右のガードが空くタイプなので、左フックが当たりやすい。空振りでもいいから驚異を与えたかった」
 5Rにも、その左フックが顔面をとらえ、相手が尻もちをつきそうになっている。10Rにボディを嫌がり、後退するソリスを見て、「左フックを振ったら入る」と確信した。「これで倒そうと思って練習してきたパンチ。本当にそれが当たってビックリした」
 狙いすませた一撃だった。

「休んで損はなかった。いい1年だった」
 最高のかたちで、3つのタイトルマッチが行われた大トリを務め、内山は満足そうな表情を浮かべた。7RKOと予想しながら「今までの相手より強い」と不安を漏らしていた渡辺均会長も「テレビの視聴率を考えたら、(11Rは)ちょうどいい時間帯。内山が強いことを証明できて良かった」と笑顔をみせた。
(写真:WBC同級王者・粟生との統一戦も「やれと言われれば行く」と前向きな姿勢をみせた)

 これで世界挑戦前も含めて8試合連続KO勝ち。KO率は驚異の83%を誇る。30歳を過ぎてから王者になり、1年近い休養があったにもかかわらず、強さは年々、増している印象だ。「内山は晩成型。まだ20代前半の力がある」と渡辺会長も太鼓判を押す。
「(新年は)ケガなくボクシングを伸び伸びできる1年にしたい」
 32歳を迎えた王者は、2012年も多くのファンを楽しませてくれるに違いない。

<井岡、挑戦者を担架送り>

 8戦無敗同士の対決とはいえ、相手はランキング10位。井岡とは格が違った。
 立ち上がりからジャブを的確にあて、主導権を握る。そして試合時間が1分を過ぎた頃には強烈な右アッパーでぐらつかせ、左ボディーを沈める。たまらずヨードグンが後退したところをワンツーと攻め立て、最後は左フックがあご先をとらえた。

 試合開始のゴングが鳴ってから、わずか98秒。キャンバスに仰向けになった挑戦者は立ち上がることができず、そのまま担架でリングの外へ運び出された。
「こんなに自分でも早く終わると思わなかった。ビックリしました」
 本人も驚くほどの圧勝だった。

 格下との防衛戦だけに結果はもちろん、内容も問われる戦いになった。しかし、パンチの精度、スピード、コンビネーションのうまさで22歳は着実に進歩を遂げていた。
「ボクシングの魅力を伝えられる試合をしたかった。初防衛戦ではKO勝ちできなかった。お客さんにKOを見せられてよかった」
 日本人最速のプロ7試合目で世界のベルトを鮮やかに奪取し、2度の防衛戦も文句なしの快勝。井岡にとって、2011年はまさに“飛翔”の1年になった。

 井岡サイドは次戦、WBA同級王者の八重樫東(大橋)との王座統一戦を希望している。その先には2階級制覇を目指す道もある。
「もっと来年は飛躍できる年にしたい」
 若きスターから目が離せない2012年がやってくる。

<細野、懐に飛び込めず>

 王者のカバジェロは身長で10センチ、リーチで19センチも上回る。細野が活路を見出すには懐に飛び込み、得意の右を叩き込むことが求められた。

 だが、リーチ差を最後まで乗り越えることはできなかった。立ち上がりから接近戦に持ち込もうとするものの、王者は長い腕をどんどん振り回し、簡単には中へ入らせない。それでも序盤はジャブを被弾しながらも上体を低くして左ボディを入れ、長身のパナマ人の動きを止めた。

 5Rには左ボディ、右ストレートがヒット。カバジェロがロープを背負う展開になり、リズムをつかみかけた。しかし、続く6Rに中途半端な距離に入って、王者の連打を浴び、流れを手放す。中盤以降のカバジェロはガードを下げ、カウンターで確実にパンチを当ててきた。それでも距離を詰めてくると体を入れ替えたり、クリンチに逃れたりとうまく試合をコントロールする。バンタム級の王座を10度防衛した実績はダテではなかった。
(写真:戦前の細野は「勝つイメージを持って練習できた」と語っていたが……)

 ジャッジの判定は119−108が2者(もうひとりは116-111)と大差がついた。階級をひとつ下げて挑んだ昨年1月の世界戦とは異なり、本来のフェザー級で臨んだ2度目の世界挑戦。試合後、観客からは「ナイスファイト」との声も飛んだが、結果は残酷だった。