フロアには扉がひとつもない。廊下は車椅子でも移動しやすいようにと硬い木製の素材が使われている。さらにはコピー機など事務機器も車椅子で使用するのにちょうどいい高さに設定されており、障がい者も不便を感じない。

 

 昨秋、オープンした東京・赤坂の日本財団パラリンピックサポートセンターは障がい者スポーツの競技団体のための共同オフィスとして東京パラリンピックの翌年まで使用される。文字どおりパラスポーツの発信基地だ。

 

 現時点では日本ブラインドサッカー協会、日本車椅子バスケットボール連盟、日本車いすテニス協会、日本ウィルチェアーラグビー連盟、日本障害者スキー連盟など25の競技団体が“同居”し、各団体の専任スタッフが常駐して作業を行っている。

 

 パラサポの「あすチャレ!」プロジェクトディレクターを務める根木慎志は「この共同オフィスができるまでは、ほとんど(競技団体の)会長さんの自宅が本部になっており、事務員といっても奥さんが帳簿をつけるような状況でした。それを考えると至れり尽くせり」と語り、続けた。「今後はパラリンピアンズ協会の理事会やウェブの勉強会など、いろいろな用途を検討しています」

 

 根木は車椅子バスケの出身である。高校3年時に交通事故に遭い、車椅子生活になった。2000年シドニーパラリンピックでは主将としてチームを牽引した。

 

 車椅子バスケは11大会連続でパラリンピック出場を決めたこともあり、パラスポーツの中では注目度が高い。車椅子バスケを題材にした井上雄彦の漫画『リアル』は大きな反響を呼んだ。

 

 とはいえ、車椅子バスケを観戦する上で欠かせない障がいのレベルに応じた持ち点の内訳を知る者は少ない。それが車椅子バスケのブースに行くと、ルールに関する資料が用意されているのだ。それはウィルチェアーラグビーも同様だ。バスケが障がいの重い順に1.0から4.5までの8段階の持ち点制なら、ラグビーは0.5から3.5までの7段階となっている。それだけでも貴重な情報だ。

 

 つまり、ここにくれば健常者が障がい者スポーツを知るだけでなく、パラアスリートが別のパラスポーツを知ることもできるのだ。ひとつ屋根の下での情報発信と情報交換。私の目に、それは江戸の“長屋文化”の現代版のように映った。情報のバリアフリー化はパラスポーツ発展のエンジンとなるのではないか。そんな予感がしている。

 

<この原稿は16年3月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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