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(写真:判定で圧勝し、ベルトを守った石本)

 ボクシングの日本スーパーバンタム級タイトルマッチが2日、東京・後楽園ホールで行われ、王者の石本康隆(帝拳)が同級1位の藤原陽介(ドリーム)を判定で下した。石本は2ラウンドにダウンを奪ったものの、なかなか波に乗れない。偶然のバッティングから両者が流血し、判定までもつれた試合を3―0で制した。石本は初防衛に成功。通算戦績を36戦28勝(7KO)8敗とした。

 

“3度目の正直”で掴んだ日本チャンピオンのベルト。初戴冠から3カ月半後、石本は藤原の挑戦を受けることとなった。34歳の石本としては、29歳のチャレンジャーをねじ伏せて世界への足掛かりにしたいところだった。

 

 Hi-STANDARDの『BRANDNEW SUNSET』に乗ってリングへと向かう。定番の入場曲に合わせて、赤コーナーのチャンピオンは赤いトランクスを穿いて登場した。それまでの調整が順調だったのか表情にも硬さは見られず、余裕すら窺えた。

 

 2ラウンド開始早々に試合は動いた。石本が左右のワンツーを当てて、藤原からダウンを奪う。石本本人も「抜けたパンチだった」とクリーンヒットではなかったが、得意のコンビネーションで幸先良くスタートを切ったかに見えた。

 

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(写真:有効打は重ねたが、相手を仕留めにかかるラッシュは少なかった)

 しかし、石本はそこから畳みかけることはできず、3ラウンドはむしろ前に出てくる藤原に押された。セコンドの中野裕司は、ラウンド終了後、石本の右頬を張った。エンジンの掛かり切らない石本に「こんなんじゃ、ダメだ! 自分から攻めないと上に行けないぞ!」と発破をかける。

 

 4ラウンド、5ラウンドは挽回。5ラウンド終了の公開採点はジャッジの3者が49-45で王者を支持した。6ラウンドも優位に立ったが、相手を仕留めるにはいたらない。7ラウンドには偶然のバッティングから頭部を切る。藤原も右目の上を切った。

 

 続く8ラウンドには開始早々に再び頭を切った石本、瞼から出血した藤原が立て続けてドクターチェックを受けた。このラウンドは石本が少し押し込まれたが、パンチを的確に当てて有効打を重ねた。

 

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(写真:2度目のダウンを奪ったショートアッパー)

 9ラウンド39秒、石本は左フック、右のショートアッパーを当てて、挑戦者を再びマットに沈めた。会場の石本コールを背にKO勝ちのムードが漂ったが、少し単調にもなった。「前にはいったんですが、雑になった。自分はあまりダウンをとったキャリアがない。相手をよく見てフェイントをかけるとか工夫がなかった。詰めることができなかった」。挑戦者を仕留め切れずに、この日9度目のゴングを聞いた。

 

 最終10ラウンドを終えて、勝負は判定へ。ジャッジ全員が98-90で王者を推した。判定では圧勝だったが、チャンピオンに笑顔はなかった。石本は「抑えるところを抑えられたんですが、守りに入ってしまった。ベルトは守らないといけないけどボクシングが守りに入ってしまったのは反省点。上に行くためにはもっと攻めのボクシングをしないと」と猛省した。

 

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(写真:大差の判定勝利とはいえ、課題が見えた初防衛戦だった)

 初防衛戦はベルトを奪うよりも難しい――。ボクシング界ではよく聞かれる言葉だが、石本もそうだった。試合までの調整は十分。中野トレーナーも「今回は一番練習しました。(スパーリングの)ラウンド数も、中身もやってきた相手今まで一番だったと思います」と振り返る。「状態は良かった」という石本だが、最後まで攻め切れなかった。

 

「自分でチャンスを潰していた。僕としては納得のいかない」と中野トレーナーはKO勝ちをできなかったことの不満を露わにした。「連打できる場面が何度もあったのに雑になったり、自分からクリンチ、ホールドしてしまっていた」と振り返った。

 

 ともあれ、初防衛に成功したことで次戦へとつなげた。目指す頂はあくまで世界チャンピオン。酸いも甘いも知る34歳のベテランは「もう後がないんで、1戦必勝で、次はビシッと勝ちます」と意気込んだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

FORZA SHIKOKU 2014年1月掲載

>>第1回 「王者に噛みついたアンダードッグ」

>>第2回 「拳闘士の原点」

>>第3回 「心の弱さが生んだ“スロースターター”」

>>最終回 「I’m a tough boy」