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(写真:2R終了間際に3度目のダウンを喫した内山<下>)

 ボクシングのトリプル世界タイトルマッチが27日、東京・大田区総合体育館で行われ、WBAスーパーフェザー級では王者の内山高志(ワタナベ)が暫定王者のジェスレル・コラレス(パナマ)に2R2分59秒KO負けを喫した。内山は11度連続防衛していたベルトを手放すこととなった。WBAライトフライ級は王者の田口良一(ワタナベ)が同級7位のファン・ランダエタ(ベネズエラ)に11R終了TKO勝利。WBAスーパーフライ級では王者の河野公平(ワタナベ)が同級7位のインタノン・シッチャモアン(タイ)に判定勝ちを収めた。田口と河野はいずれも3度目の防衛を果たした。

 

 レフェリーが両手を振った瞬間、試合終了を告げるゴングが打ち鳴らされた。その時、キャンバスに尻もちをついていたのが内山で、勝ち名乗りを挙げたのはコラレスだった。

 

「調子も良かったし、調整もできていた」という内山。対戦相手のコラレスは前日計量の1回目を400グラムオーバーで、再計量でクリアしていたため、調整遅れを感じさせた。日本人最多連続防衛(13)にあとひとつと迫る12度目の防衛は、既定路線かと見られていた。

 

 しかし、内山は“消える男”の異名を持つコラレスをとらえることができなかった。それどころか変則サウスポーの巻き付くようなブローをかわし切れない。「スピードは思った以上にあって、タイミングがやりづらい。左は見えづらかった」と内山。ワタナベジムの渡辺均会長が「1ラウンドとられたのを初めて見た」と振り返る。陣営も驚くような展開で幕を開けた。

 

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(写真:距離を取って流れを切ろうとしたが、ラウンド終了まで堪えられなかった)

 赤コーナーに戻り、セコンドから用意された椅子に座ると内山は笑顔を見せた。「次からいこう」。ここで一息を入れて、盛り返す。内山も陣営も、そして大田区総合体育館につめかけた観衆の多くがそう思ったに違いない。

 

 だが、2ラウンドに待っていたのは豪快な逆転劇ではなかった。1分を過ぎたあたりで「何をもらったかわからない。見えなかった」と内山にカウンター気味に左フックが入る。足元がふらつくほどダメージは大きかった。立ち上がって反撃を試みるが、逆に左右の連打を食らって再びのダウン。無敗の王者が窮地を迎える。

 

 ここで内山は距離を取り、コラレスのパンチをかわす。時にはクリンチも駆使して、危機を回避しようと試みた。セコンドからもクリンチの指示が届いていたが、“KOダイナマイト”内山にも意地がある。ラウンド終了10秒前を告げる拍子木が鳴ると、「やり返したい気持ちが出た」と攻め気にはやるコラレスに付き合ってしまう。

 

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(写真:淡々と試合を振り返る内山)

 コラレスが大きく振り回す。最後は左フックが内山の顔面をとらえ、そのまま尻もちをついて倒れ込んだ。呆然とした表情の内山。ラウンド3度目のダウンは、WBAのルール上KO負けを宣告される。プロ26戦目にして初黒星。それは6年以上もの間、守り続けてきた王座から陥落することを意味した。渡辺会長は「もう正直こういう選手とは巡り会えない。記録を作りたかった」と唇を噛んだ。日本歴代2位の11連続防衛で記録はストップした。

 

 内山は反撃することすら許されぬまま、リングを降りることとなった。「温まる前に終わってしまったので何が何だか……。実力の世界なんでしょうがないです」。年齢は36歳と決して若くはない。内山は「終わったばかりなので何とも言えない」と進退については明言しなかった。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

 田口、5度のダウン奪うTKO

 

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(写真:「もっと早く倒したかった」とTKO防衛にも笑顔はなかった)

 トリプルタイトルマッチのトップバッターは、ライトフライ級王者の田口が務めた。11ラウンド終了後に挑戦者が棄権し、王座を守った。

 

 試合が動いたのは2ラウンド目だった。ボディでランダエダをぐらつかせると、一気にロープ際へ追い込んだ。しかし老獪な相手に「うまくかわされた」と仕留め切れない。

 

 以降はショートアッパーが決まるが、決定打は生まれない。中盤に入り、やや小康状態に入る。田口も「中盤は良くなかったのは応援で分かる。静かになった」と振り返る。押し気味ではあるものの、「やりたいことをやらせてもらえなかった」とジャブを返されるなどペースを掌握できなかった。

 

 終盤に入ると、田口がリズムを掴んだ。9ラウンドは左ボディでダウンを奪うと、その後も連打でランダエダをキャンバスに沈めた。ラウンド内にあとひとつダウンを取れば、KO勝ちだったが倒し切れなかった。

 

 その後も10ラウンドに1度、11ラウンドに2度ダウンを奪う。いずれもカウント8でランダエダに立ち上がられた。5度のダウンを喫しながら諦めないランダエダの意地とタフさを見せつけられたが、最終ラウンドを戦う余力は挑戦者にはなかった。

 

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(写真:ロープ際に追い込む場面は何度も見られた)

 これで3連続KO防衛である。本人は「倒し切っていない」と満足はしていない。決してハードパンチャーではないが、ダウンを奪う力はついてきた。「連打をもうちょっと細かくやればよかった」と反省する田口。彼の言葉通り、チャンスとみてのラッシュがやや正確性を欠いていたように見えた。結果は圧勝だが、課題の見えたV3だった。

 

 今後は日本人対決も期待され、WBO世界ミニマム級王座を返上したばかりの田中恒成(畑中)の名前も挙がっている。田口は「決まった試合をやる」と対戦相手を選ぶつもりはない。自らの名を上げるため、「もっともっと強い選手とやって勝ち上がりたい」と意欲を燃やす。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

 河野、大差の判定でV3

 

 1ラウンドこそ静観した河野だったが2、3ラウンドでリードパンチ、フックを巧みに使い徐々に流れを引き寄せる。リズムを掴んだ4ラウンド目で河野が仕掛ける。河野は見事なワンツーを繰り出す。右ストレートがシッチャモアンの顔面に入り、この試合最初のダウンを奪う。

 

 5ラウンド目も河野のラウンドだった。近距離で両者が打ち合う中、河野の右ボディが炸裂し、早くも2度目のダウンを奪った。

 

 6ラウンド目はシッチャモアンが2度のダウンを取り返そうと積極的に前に出てくる。それを河野が軽快なフットワークでいなす展開となった。河野は相手のパンチを冷静に見極め、距離を取ってかわした。

 

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(写真:落としたラウンドは1回だけという完勝だった)

 そして迎えた7ラウンド目。河野が動く。右ストレートで挑戦者を苦しめる。シッチャモアンもパンチを繰り出し、距離を取ろうとする。前に出た河野の右ストレートがシッチャモアンの顔面を捉えると、3度目のダウンを奪った。

 

 以降はスタミナを消耗したシッチャモアンの反撃をかわしながら、河野が隙を窺う展開だった。河野はKOのチャンスもあったが仕留めるまでには至らず、結果は判定へ――。「正直、スカッと勝ちたかった」という河野。ジャッジ3人が119-106で王者を支持する3-0の圧勝防衛だった。世界戦初挑戦だった相手を寄せ付けることなく、河野がチャンピオンとしての威厳を見せつけた試合となった。

 

(文/大木雄貴、写真/杉浦泰介)