8シーズン目を迎える四国アイランドリーグPlusから、昨年は7選手が10月の育成ドラフトで指名を受け、NPB行きの夢を叶えた。本ドラフトでの指名はなかったとはいえ、これは人数だけでみれば過去最多である。東京ヤクルトの貴重なスーパーサブとして1軍定着した三輪正義(元香川)や、千葉ロッテのクリーンアップも任された角中勝也(元高知)など元アイランドリーガーのNPBでの活躍も増えてきた。彼らに続き、近い将来、1軍でのプレーが期待される新人選手たちを紹介する。
(写真:強肩が売りのソフトバンク育成7位・飯田)
<内野手版イチローへ 〜ソフトバンク育成2位・亀澤〜>

 名前は亀でも足は速い。50メートル走のタイムは5秒9。亀澤恭平は俊足巧打の内野手だ。2011シーズンは1年目ながら打率.303、26盗塁と香川の切り込み隊長として活躍した。
「先輩から話を聞いて、1年目が勝負だと思っていました。この1年に賭けていたので本当にうれしかったです」

 アイランドリーグがなければ、今頃は地元の岡山県津山市で公務員になっていたかもしれない。作陽高時代は目立った存在ではなく、IPU環太平洋大では4年秋に明治神宮大会に出場したのが唯一の全国での実績だった。しかし、スピードという誰にも負けない武器が、途切れそうだった彼の野球人生をつないだ。
「最初に見た時から素晴らしい足の速さを持っていました。転がせばヒットになる確率が高いだけに、ピッチャーや内野手にプレッシャーを与えられる」
 そう評する前田忠節コーチの目にも留まり、香川入りが決まった。

 だが、その前田コーチ曰く、「入団当初は本能のままプレーしていた」。野球というスポーツを充分に理解し、攻守に渡って、その才能を生かし切っているとは言い難かった。亀澤はマンツーマンで内野守備の指導を受けるところから、アイランドリーグでの生活を始めた。
「大学までは、ただ捕って投げるだけで、そんなに守備について考えたことはなかったんです。でも、これではNPBには行けない。捕り方ひとつにしても、左足を前にしたり、右足を前にしたり、バリエーションがある。それらをひとつひとつ練習で体に覚えさせてもらいました」
 
 盗塁もリーグ2位の26個を決めたとはいえ、本人は「倍は走れた」と振り返る。
「試合をこなしていくうちに、なかなかスタートが切れない自分に気づきました。打席での感じるピッチャーのタイミングと、一塁に出た時のそれは違う。もちろんカウントや状況によっても走りやすい場面と走りにくい場面がある。ようやくシーズンの最後になって、それらを踏まえた上でスタートを切る雰囲気が分かってきたように思います」
 いかに守り、いかに走り、いかに打つか。高い次元を求めれば、その分、越えるべき壁も高くなる。しかし、壁が大きいからと言って逃げ出していては、その先の景色は見られない。肉体的、精神的にもハードな1年を経て、亀澤は「すべての面で成長できた」と断言する。そして、その伸びしろがスカウトに見込まれたのだ。

 ソフトバンクは長年、ショートのレギュラーを張ってきた川崎宗則が海を渡り、ポジションが空いている。まだ育成選手とはいえ、アピール次第でチャンスはある。亀澤を1年間、見守ってきた前田コーチがソフトバンクの2軍内野守備走塁コーチに就任したのも心強い。
「ただ足が速いだけではなく、いろんな面で突き出たプレーヤーになりたいです」
 目指すは内野手版のイチロー。1番打者として快音を響かせ、ダイヤモンドを駆け巡り、守備でも魅せる。ソフトバンクでは、まさに川崎が担ってきた役割だ。川崎も背番号51のリードオフマンには強い憧れを抱いていた。単に走攻守3拍子揃った存在になるのがゴールではない。走攻守でスバ抜けた存在になり、川崎を、そしてイチローを追いかける。

<古田に憧れ、城島を目指す 〜ソフトバンク育成7位・飯田〜>

「もうダメだ……」
 昨秋のドラフト会議。NPB入りは半分諦めていた。本ドラフト、育成ドラフトと会議は進めど、自分の名前は一向に呼ばれない。各球団は指名を次々と終了し、声がかかっていたソフトバンクも同じポジションである捕手を育成6位で指名した。
「正直、ガッカリした気持ちでした」
 ところが一瞬にして落胆は歓喜に変わる。
「飯田一弥、捕手……」
 育成7位でソフトバンクから指名を受けたことを知り、頭の中が真っ白になった。

 アイランドリーグでは4年間プレーし、この3月で26歳になる。実は2010年のシーズン限りで野球を辞めるつもりだった。高知の定岡智秋監督に相談すると、「ここまでやってきたんだ。もう1年、ガムシャラにやってみろ」と説得された。だから、昨季は本当にラストシーズンだった。

 小学4年からキャッチャー一筋でやってきた。憧れていたのは当時のナンバーワンキャッチャー、古田敦也(元ヤクルト)。関西国際大でも同じ背番号27を背負った。だが、古田のごとくチーム内で扇の要になることは叶わなかった。大学3年になると、試合にすら出られない日々が続いた。

 プロ野球選手になる夢を抱いて四国にやってきたものの、経験不足は明らか。1年目はマスクをかぶっていてパニックになった。特にアイランドリーグは勝つだけなく、選手の能力を伸ばすことも求められる。速球が武器の投手に、変化球をたくさん要求して抑えたところで、スカウトには何のアピールもならない。
「監督には“一番いいボールを投げさせた上で、抑えるのがオマエの仕事だ”と言われていました」
 ピッチャーの良いところを引き出し、かつバッターを抑える――そんな難問を日々の試合でドリルのように解き続けるうち、飯田の野球脳はどんどん進化していった。

 ソフトバンクは昨季、細川亨がFAで加入し、キャッチャーの層は厚い。リーグの先輩でもある堂上隼人(元香川)も昨季はわずか出場1試合と出番がなかった。育成だけでもキャッチャー登録の選手は4人もいる。
「もう26歳ですから育成選手のなかで競っているようではダメでしょう。堂上さんだけでなく、山崎(勝己)さんといった1軍のキャッチャーと勝負するレベルにいかないと」
 決して与えられた時間は多くないと自覚している。では勝負のルーキーイヤー、何を監督、コーチに売り込むのか。
「体のキレ、俊敏性です。肩の強さも売りですが、アイランドリーグではただ放るだけでなく、素早く正確にスローイングすることを追求してきました」

 日本一に輝いたソフトバンクの弱点と言えるのは盗塁阻止率の低さである。昨季の阻止率.157は12球団ワースト。12球団トップの180盗塁とよく走った半面、107個も塁を盗まれている。次の塁を狙う走者をピシャリと刺せば、ピッチャーの信頼も高まるだろう。支配下登録の可能性はそこにある。
 またソフトバンクの捕手陣は細川が打率.201、山崎が.189と打撃ではやや物足りなかった。右方向にも鋭い打球を飛ばせるバッティングも強みになるはずだ。

「憧れは古田さんですが、目指す方向性としては城島(健司)さんになるんでしょうね。守りでは盗塁を防ぎ、バットでも貢献できる選手になりたい」
 かつてホークスを攻守に渡って牽引した存在に一歩でも近づけば、ヤフードームのホームベースを守る日も近くなる。ドラフトでは最後の最後に名前を呼ばれた男は、チームで真っ先に名前があがる選手を目指す。

(Vol.3につづく)
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(石田洋之)