第46回スーパーボウルは、2008年の第42回と同じマッチアップとなった。
 近年はAFCを代表する強豪であり続けてきたニューイングランド・ペイトリオッツと、通算4度目の頂点を目指すNFCの雄・ニューヨーク・ジャイアンツが5日に激突する。ペイトリオッツが第1シードから順調に勝ち抜いてきたのに対し、ジャイアンツはワイルドカードながら快進撃。両チームのここまでの勝ち上がりの過程も4年前に酷似している。
(写真:伝統チーム同士の対戦となり、今年のスーパーボウルの盛り上がりは例年以上だ)
 アンダードッグの快進撃を好むのはアメリカのファンも同じ。シーズン中は9勝7敗と平凡な成績ながら、プレーオフに入って第1シードのグリーンベイ・パッカーズ、第2シードのサンフランシスコ・49ersを敵地で連破してきたジャイアンツにニューヨーカーも熱狂している。ついに迎えるペイトリオッツとの運命的なリマッチを前に、ニューヨーク中のスポーツファンが独特の高揚感を感じ始めていると言ってよい。

 ただひとつだけ4年前と違うのは、今回のスーパーボウルを前にして、ジャイアンツは圧倒的不利とはみなされていないことだ。
 2007-08シーズンのペイトリオッツはシーズン中から断然の強さで勝ち続け、スーパーボウル進出を決めた時点で18戦全勝と無敵の勢いだった。そのチームをジャイアンツが17−14で下した第42回スーパーボウルは、NFLのみならずアメリカンスポーツ史上に残る大番狂わせとして歴史に刻まれている。

 しかし当時と比べ、今回は戦前から“実力伯仲”という前評判が圧倒的だ。
 通算勝率こそペイトリオッツがはるかに上だが、昨年11月にペイトリオッツのホームで直接対決した際には24−20でジャイアンツが勝利している。しかもジャイアンツは7勝7敗で迎えた昨年12月24日のニューヨーク・ジェッツ戦以降、破竹の5連勝中。一方のペイトリオッツも10連勝中ではあるが、ボルチモア・レイブンズとのAFCチャンピオンシップでは地元開催ながら大苦戦も味わっている。戦況はほぼ互角か、時の勢いだけ考えれば、むしろジャイアンツの方が上回っていると言えるかもしれない。

「前回はどんな展開になるかはっきり言ってわからなかった。しかし今回は勝てるとわかっている」
 ジャイアンツのRBブランドン・ジェイコブスは自信を隠さずにそう語り、さらにこう続ける。
「ペイトリオッツの攻撃ラインは素晴らしいし、激しくプレッシャーをかけてくるはずだ。ただそのプレッシャーを少しでも緩和させてあげられることができれば、E(QBイーライ・マニングの愛称)が何かを起こしてくれるだろう」

 その言葉に象徴されるように、エースQBマニングの勝負強さこそが、ジャイアンツファンが今週末の決戦を楽観的に捉えられている最大の要因なのかもしれない。
 今季のマニングはパスでリーグ史上6位の4933ヤードを稼ぎ、特に最終クォーターに挙げた計15タッチダウンパスはNFL新記録。今プレーオフに入ってもすでに8タッチダウンで、インターセプトを許したのはわずか1回のみ。QBレイティングも103.1と快調なプレーを続けている。
(写真:マニングの冷静さと勝負強さはプレーオフでも際立っている)

 今季開始前、普段はおとなしいマニングが「自分もトム・ブレイディ(ペイトリオッツ)と同じレベルだと考えられるべきだ」と珍しく大胆発言を残した。しかし、そんなセリフを吐いた後でも、プレースタイルが派手になるわけでもなく、冷静に自身の仕事を遂行できるのがこの選手の長所でもある。

 49ersとのNFCチャンピオンシップ前にも、レシーバーたちに「ビッグプレーはできなくとも、絶対にミスだけはしないように」と声をかけ、実際にターンオーバーなしでまとめあげた。どんな状況下でも変わらないこの冷静さこそが、プレッシャーが格段に増す最終クォーターでのタッチダウンパス量産に繋がっているに違いない。そしてその静かなリーダーシップゆえに、同僚たちからも絶大な信頼を集めているのだろう。

 もちろんこのマニングの成長を考慮した上でも、スーパーボウルが楽な戦いになることはあり得ない。
 対するのはすでに3つの優勝リングを勝ち取ってきたビル・ベリチックHCとQBブレイディが率いるペイトリオッツ。今季は身体能力に秀でたロブ・グロンコウスキー、アーロン・ヘルナンデスというTEデュオを中心とした戦術を完成させ、依然として高い得点力を誇る。ディフェンスの甘さが指摘されてきたが、この大一番ではしっかりとまとめあげてくるだろう。

 シーズン中にジャイアンツに一度敗れているとはいえ、「ベリチックとブレイディが1年の間に同じ相手に2度負けることは考えにくい」という声も聞こえてくる。現実的に考えて、やはりペイトリオッツがやや有利と見るのが妥当。ラスベガスのオッズもやはりその予想を反映した数字となっている。

 ただ……ペイトリオッツの強さを認めた上でも、ドラマチックな形でここまで勝ち上がってきたジャイアンツが、今季最後の一戦でも特別な何かを見せてくれることを期待せずにはいられない。QB比較でも総合力と歴史的評価では間違いなくブレイディが上だが、現状で勢いがあるのはマニングだろう。
(写真:ジャイアンツの攻撃ラインがどれだけマニングを守れるかもポイントのひとつ)

 思えば4年前のスーパーボウルでも、最終クォーターの残り35秒でマニングが逆転タッチダウンパスを通し、ジャイアンツは奇跡な形で勝利を飾った。今季、レギュラーシーズンの対戦でも、マニングは最終クォーター残り15秒でタッチダウンパスを決めてジャイアンツを逆転勝利に導いている。

 迎える第42回スーパーボウルで、歴史は繰り返されるのだろうか?
 ドラマチックな勝利の再現を、ニューヨーカーは予期している。4年ぶりに紙吹雪が盛大に舞う日を、ブロードウェイも心待ちにしている。
 そんな街の期待に応えるべく、ゲーム終盤にマニングの右肩に勝負が委ねられるような展開になったとすれば……。そのとき、ジャイアンツの“ミラクルラン”の完遂は現実味を帯びてくるかもしれない。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
※Twitterもスタート>>こちら
◎バックナンバーはこちらから