8シーズン目を迎える四国アイランドリーグPlusから、昨年は7選手が10月の育成ドラフトで指名を受け、NPB行きの夢を叶えた。本ドラフトでの指名はなかったとはいえ、これは人数だけでみれば過去最多である。東京ヤクルトの貴重なスーパーサブとして1軍定着した三輪正義(元香川)や、千葉ロッテのクリーンアップも任された角中勝也(元高知)など元アイランドリーガーのNPBでの活躍も増えてきた。彼らに続き、近い将来、1軍でのプレーが期待される新人選手たちを紹介する。
(写真:新入団選手発表で活躍を誓った冨田(右)と西森)
<マエケンとの対決を夢見て 〜DeNA育成1位・冨田〜>

 昨年のドラフト会議前日、香川にいた冨田康祐に電話をかけてきた選手がいた。
「明日、ドラフトやな。どうや?」
「めっちゃ緊張してるわ」
「高校の時、オレもそんな感じやったな」
「そうか? でも、オマエは指名確実やったやろ?」
「そんなことないって。でも、セ・リーグのチームから指名されたらええなぁ」
 電話の主は広島・前田健太。実は2人はPL学園高時代の同級生である。

 高校ではマエケンはエースで4番。冨田は外野のレギュラーで、控え投手の役割も兼ねていた。
「高校時代、マエケンはカーブが得意で、僕はスライダーを武器にしていた。だから、お互いに球種を教え合ったこともあります。でも、アイツのカーブは覚えられなかったんです。あれだけしなやかに投げられるのはスゴイなと思ってみていました」

 高校卒業後、マエケンは高校生ドラフト1巡目で指名を受け、広島へ。冨田は強豪の青山学院大に進み、1年春には早くもリーグ戦デビュー。初先発で完投勝利をあげ、4年後に同じプロの舞台で投げ合うプランは順調に進んでいたように思えた。

 ところが……。その後、順調にプロでステップアップしたマエケンとは裏腹に、冨田の名前は大学球界でなかなか見られなくなっていく。ヒジ痛もあり、登板機会が減少したためだ。そして2010年、両者の明暗はくっきりと分かれた。マエケンは15勝8敗と大きく飛躍し、沢村賞など投手部門の各賞を総ナメにする。球界を代表する若手エースのニュースを横目で見ながら、大学4年の冨田は進路が決まらず、野球人生の崖っぷちに立たされていた。
「正直、野球を続けようかどうか迷いました。でも相談した人は誰ひとり“やめろ”とは言わなかったんです。“まだ勝負できる”って。僕自身も不完全燃焼だったので、独立リーグに行こうと決心しました」
 
 140キロ台後半のストレートにフォーク、スライダー。アイランドリーグの香川では、クローザーに指名された。全64試合のうち、4分の3にあたる48試合に登板。3勝3敗9セーブで防御率はリーグ2位の1.39。1イニングあたり約1個ペースとなる69奪三振を記録した。
「よく投げたと思いますが、疲れは感じませんでした。個人的には残り16試合も投げたかったです。NPBの1軍だと、アイランドリーグの倍以上の試合数ですから、これくらいで疲れていてはダメだと思います」
 フル回転できた背景には陰の努力も見逃せない。香川の前田忠節コーチ(現福岡ソフトバンク2軍内野守備走塁コーチ)は「彼は球場入りの際も車ではなく、自転車で移動し、足腰を鍛えていた」と明かす。
(写真:NPBとの交流試合では「いつも通り投げたら打たれない」と自信を得た) 

 1年間の抑え経験はスタミナ面のみならず、ピッチングの幅も広げた。
「抑えは僅差で登板しますから、ムダな四球は出せない。でも、コントロールを気にしすぎるあまり“ストライクゾーンに投げなきゃ”と思うと、かえって腕が振れなくなる。それよりも思い切って投げることのほうが重要だと気づきました。コースに投げて見逃しを狙うのも、球威のあるボールでファールを打たせるのも、同じワンストライク。そう考えるとマウンドで気楽に投げられるようになりました。後期は四球も少なくなりました」
 不安視された大学時代の故障の影響を払拭し、課題の制球力も改善された。輝きを取り戻した右腕に対し、ドラフトでは上位指名されるのでは、との報道もあった。だが、フタを開けてみれば育成指名。念願のNPB入りを果たしたことはうれしかったが、ショックがなかったと言えばウソになる。

 だからこそ、かえってモチベーションは高まった。究極の目標は「誰もなったことがないナンバーワン投手」だ。
「やはり一番のセールスポイントはストレート。以前は“ストレートのスピートで世界一になる”ことを目指していました。でも、チャップマン(レッズ)が106マイル(約171キロ)のボールを投げたそうなので、170キロ以上出さないといけなくなりましたね(笑)」
 現在、ストレートのMAXは152キロ。誰も打てない真っすぐをキャッチャーミットめがけて投げ込みたいと思っている。

 ドラフト前日に電話をかけてくれたマエケンはプロの世界では随分、先を行く。同じマウンドで投げ合うには、まず支配下登録、そして1軍昇格と、いくつものハードルをクリアしなくてはならない。しかし、1度はどん底を味わった男に恐れるものなど何もない。
「投げ合ったら絶対に勝つという強い気持ちを持っています」
 同級生からライバルへ――。直接対決は意外と早い時期に見られるかもしれない。

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(石田洋之)