NPBもアイランドリーグも各球団が2月1日に新チームを始動してから半月が経過した。今シーズン、リーグからは過去最多の7名が新たにNPBの門をくぐり、計23選手が1軍の檜舞台で活躍するべくキャンプで汗を流している。リーグの行方ともに、彼らの動向も気になるところだ。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちは、新たなシーズンにどのように臨もうとしているのか? その今を追いかけた。
 左のスペシャリストへ――岸敬祐

 ルーキーイヤーの昨シーズン、滑り出しは順調だった。キャンプでのアピールに成功すると、育成選手が主体となる“第2の2軍”ではなく、1軍昇格を前提とした2軍で開幕を迎えた。3月25日の初登板(ジャイアンツ球場、東北楽天戦)では7回、1死2塁のピンチでマウンドへ。左打者2人をきっちり抑え、直後に味方が勝ち越したため、早速、“初勝利”を手にした。

「今のジャイアンツには左投手が不足している。左を確実に抑えたらチャンスはある」
 原辰徳監督からは直接、声をかけられた。1軍が開幕前でジャイアンツ球場で調整をしていたため、目に留まったのだ。その後も8試合連続でリリーフ登板して無失点。支配下登録の可能性もささやかれるようになっていた。

 だが、プロはそんなに甘くない。結果を残せば残すほど、徐々に結果に縛られるようになってくる。「失点してはいけない」と気持ちが消極的になり、5月に入るとリリーフ失敗が続いた。待っていたのは“第2の2軍”降格。それは支配下登録、そして1軍への道が遠のいたことを意味した。

 折れそうになった心を支えたのが2人の兄、健太郎さんと靖悟さんだ。健太郎さんは福岡ソフトバンクの打撃投手を務めている。靖悟さんも大学時代までは内野手でプレーしていた。特に2番目の兄、靖悟さんは事あるごとに連絡をとり、叱咤激励してくれた。
「“覇気を出せ”“オマエは何を目指しているんだ”と言われました。高い志を持って巨人に入ったはずなのに、実際にシーズンが始まると目の前の結果ばかり追いかけている自分がいた。常に高みを目指して頑張ろうと思い直させてくれました」

 第2の2軍での2カ月間、岸は自分自身と向き合った。メンタル面のみならずフィジカル面も再度、鍛え直した。
「2軍で投げている時は、どうしても登板に合わせての調整が中心になって、体のキレが悪くなったのを感じていました。やはり1年間、いいパフォーマンスで投げられる体力が必要だと痛感しました」
 調子を取り戻した左腕は7月に再び2軍へ昇格。結局、20試合に登板して1勝0敗、防御率2.25でシーズンを終えた。

“左殺し”の武器はシュートだ。左打者の内角を思い切って突くボールは勇気がいる。だが、「これが生き残るための手段」と徹底して投げ続けた結果、「左バッターに投げれば大丈夫」と胸を張れるほどになった。

 次なる課題は右バッター対策だ。左のワンポイントでマウンドに上がっても、勝負どころでは相手ベンチも右の代打を送り込んでくる。秋の宮崎フェニックスリーグからは右打者を抑える変化球としてスクリューボールを磨いた。関西独立リーグ時代に習得していたものの、その後、封印していたボールだった。
「落ちながら、右バッターの外角に逃げていくボールです。最初はコーチの反応もイマイチでしたが、実戦で投げていくうちに右打者から空振りを取れるようになりました。“これは使えるぞ”と」

 目指すはソフトバンクの森福允彦。年齢も25歳で同学年だ。日本シリーズで無死満塁の大ピンチを切り抜けた場面をテレビで観て鳥肌が立った。
「右バッターが3人出てきて抑えたんですからね。左だけのピッチャーじゃない。僕も最初は左のワンポイントかもしれないけど、いずれは1イニングを任せてもらえるピッチャーになりたいと感じました」

 岸には夢がある。「お金を稼いで、病気をしたり、恵まれない環境にいる子どもたちに寄附ができる存在になりたい」。自身も小さい頃はアトピーに悩まされた。身長は180センチあるが、体重は74キロと決して大柄ではない。それだけに病気の子どもたち、体の小さな子どもたちの力になりたいと考えている。
「だから、まずは早く支配下登録されて1軍で投げること。そして1年でも長く、この世界でプレーすること。志高くやっていきたいと思います」

 マウンドに立つのはひとりだが、決して孤独ではない。2人の兄、そして多くの子どもたちの思いを左腕に込められるピッチャーへ――。関西、四国と2つの独立リーグを経験した“雑草”は上へ上へと成長を続ける。
 

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(石田洋之)