古くは、2部リーグ、1部リーグ、そして欧州チャンピオンズカップを立て続けに制覇した「ノッティンガム・フォレストの三段跳び」がある。

 

 ブンデスリーガならばカイザースラウテルン、日本ではレイソルやガンバなどが、2部から昇格して即優勝という快挙をなし遂げている。

 

 サッカー界には、何年か、あるいは十数年かに一度、とてつもない番狂わせが起きるものだが、いま、イングランドで起きていることは、その中でもとびっきりと言っていいだろう。

 

 これ以上の事件は、少なくともわたしが生きている間はもう起こりそうもない。そう確信できてしまうぐらい、レスターの首位快走は歴史的な事件である。

 

 残り3試合で2位トットナムとの勝ち点差は7。3試合のうち1つ勝つだけで、優勝が決まる。すでにエース・ストライカー、バーディーの元には自伝的な映画の製作話が舞い込んでいるというし、おそらくは今後、レスターのシンデレラ・ストーリーにまつわる著作やドキュメンタリーが次々と世に出てくることだろう。

 

 そもそも、なぜレスターは強いのか。恥ずかしながら、わたしには他人を納得させられるだけの論理がないし、得心の行く説明に出合ったこともない。おそらくは誰も説明はできないし、だからこそ掛け値なしに奇跡と呼ぶことのできる物語として、語り継がれていくだろうとも思う。

 

 そして、おそらくは世界のサッカーも、いくらかは変わる。

 

 基本的には一発勝負となるW杯などの大会では、ゆえに弱者にも勝つチャンスはあり、また、勝てると信じて試合に臨んできた。だが、長丁場のリーグ戦では、優勝候補とされるクラブとそうでないクラブとでは、シーズン開始時の目標がまったく違っていた。というより、大多数のクラブは、優勝という目標を度外視して開幕を迎えていた。

 

 ところが、世界でもっとも注目を集める、そして世界でもっとも資金が流れているリーグで、当事者ですら優勝など夢にも考えていなかったクラブが、とてつもない奇跡を起こそうとしている。ならば自分たちも、と考える人間は、当然、世界中のあちこちで生まれてくることだろう。

 

 野望を抱くクラブが増えれば、リーグ戦は白熱する。大それた望みを抱いた分、手痛いしっぺ返しを食らうチームも多々現れるだろうが、負けないことばかりを考えるクラブより、勝つことを考えるクラブが増えるのではないか。

 

 もちろん、レスターに起きているような奇跡は、そう簡単に起こることではない。ただ、弱者が奇跡を起こすために、ビッグクラブが目を向けない地域やカテゴリーに活路を見いだす傾向が強まってくれば、世界のサッカーは、より活性化していくことになる。

 

<この原稿は16年4月28日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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