ちょっとびっくりした。いまではすっかりお馴染みになった欧州CLのアンセム。導入されたのは96~97シーズンからだという。どういうわけか、チャンピオンズ“カップ”が“リーグ”へと移行したのと同時に導入されたものだと思い込んでいた。

 

 ということは、試合開始前にアンセムを流すというスタイルは、Jリーグの方が先だったということになる。

 

 TUBEの春畑道哉さんが作曲した「J`S BALLAD」は、いまではいくつかのチームが使用するだけになってしまったが、開幕当時はすべての会場で流されていた。勇壮でありながら哀愁も感じさせるメロディーは、わたしの中でJリーグ初期の隆盛と分かちがたく結びついている。

 

 それに比べ、最初のうちはあまりピンとこなかったのがCLのアンセムだった。実際、バルセロナなどは、欧州サッカー連盟から押しつけられたアンセムより、自分たちのアンセム「イムノ」の方をはっきり重視していた。

 

 流れが変わってきたのはいつごろからだったか。少なくとも、日本のCS放送では、アンセムを国家吹奏と同様に扱うようになった。それまではアンセムが始まってもアナウンサーの方と解説者が普通に雑談を続けていたのだが、あのメロディーが流れる直前から、沈黙を保つようになったのである。

 

 選手の反応も変わった。導入初期には多く見られた居心地悪そうにモゾモゾする選手は激減し、その荘厳なメロディーに心を委ねているような表情を浮かべる選手がどんどんと増えた。いまや、あのアンセムを聞くことのできる舞台に立つことが、多くの選手にとって大きな目標となっている。

 

 CLの成功に気をよくしたUEFAは、系列の欧州リーグにもアンセムを導入した。いまのところ、こちらは初期のCLをほうふつさせるというか、選手たちを陶酔させるまでにはまったく至っていないが、さて、どうなることやら。

 

 音楽の力に先に目をつけたJリーグは、いまでは各クラブがそれぞれの音楽を使用するようになった。それはそれでまったく悪いことではないが、しかし、特別な気持ち、特別な力を引き出してくれるような音楽が必要なのでは、とも思う。

 

 早稲田大学のラグビー部には、大学選手権に優勝した時のみ歌うことが許させる「荒ぶる」という部歌がある。優勝した年度の最上級生でなければ、卒業後、冠婚葬祭であっても歌うことが許されないという伝統は、早稲田ラグビー部の大きな力にもなっていると聞く。

 

 そういう歌が、音楽が、Jにも欲しい。

 

 もし自分に作曲の才能があったとしたら。ACLに出場するチームのみ、試合前に流すことが許させるアンセムを作る。それを歌うことがサポーターと選手の目標になるような曲を、作る。

 

 才能があれば、の話だが。

 

<この原稿は16年5月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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